「フレイル」という言葉を目にしたり、耳にしたことはありますか? 健康な状態と、介護が必要な状態との中間のことを指し、2014年に日本老年医学会が「年齢に伴って筋力や心身の活力が低下した状態」と提唱しました。高齢化社会が進むにつれ、これからさらに重要視されていく病態です。
歳をとって身体の機能が落ちていくのは自然の現象ではあるものの、そのまま放置していると介護が必要な状態になってしまいます。健康寿命を伸ばすために、どう対応していけばいいのでしょうか。患者さんの生活や身体機能を高めるため、リハビリテーションと栄養の側面から診療を続けている東京女子医科大学病院リハビリテーション科教授・診療部長の若林秀隆先生にお話を聞きました。
前回は社会参加の大切さについて聞きました。最後は、今、新型コロナウイルスの不安のなかで、どうフレイルと向き合うべきかというお話です。
感染に気をつけつつ、少しでも外に出て動くようにしましょう
新型コロナウイルスの影響で、外に出る機会が減ると、どうしても身体を動かす時間も少なくなります。市や区が運営する施設も時間制限を設けていたり、大勢で集まることは自粛している状態なので、スポーツを楽しむ場も減っています。
また、外食する機会も減り、食事を楽しむことも少なくなっていますし、そのぶん家族以外との交流もしにくくなっています。デイサービスやデイケア、リハビリに通っていた方も、今は控えているという状況です。
「気持ち的にも、新型コロナウイルスに感染したらどうしようと心配する状況ですよね。そういう不安を抱えた状態も精神心理面のフレイルに繋がりやすくなるんです」
自粛して身を守っている状況が、フレイルに繋がりやすくなるという側面も併せ持っています。普段にも増して、予防を意識する必要があると若林先生は続けます。
「制約のある現状とはいえ、それでもできることはありますから、安心してください。密集している場でなければ外に出てもいいのですから、時間と場所を選んで少しでも外を歩くように心がけてみてください。一日一回でも、短い時間でもいいですから、外に出ることが大切です。歩けば身体を動かすことにもなりますし、気分転換にもなって精神心理面にも効果があります」
人が密集している場所でなければ、ウォーキングをすることも可能です。家に閉じこもってばかりではなく、ほんの一歩でも外に出るだけで気持ちが変わるかもしれません。
人が密集していない、出かけられる場所もあります
外出を極端に制限してしまうと、身体面だけでなく、精神心理面でも社会面でもフレイルのリスクはあります。少しでもいいので「楽しい」と感じる時間を持つことも大切です。
「感染症対策をしている飲食店が増えてきているので、きちんと気をつけているお店であれば少人数での外食もいいと思います。向かい合わせの食事は難しくても、カウンターなどで隣に座って食べることを楽しむのはいいことです。他にも、時間制限があるとはいえ図書館は開館していますし、出かけられるスポットが全くないわけではないんです」
不安だからと家に閉じこもるのではなく、人混みを避け、感染症対策をしたうえで、外に出るように意識しましょう。散歩をするだけでもいいですし、空いている時間に買い物に行くのでもいいのです。
外出をした場合は、帰宅後にきちんと手洗い、うがい、手指の消毒をすることを忘れないようにしましょう。
年を重ねていけば、身体の機能が落ちていくのは仕方のないこと。ただ、それをそのまま放置せずに、きちんと食べたり、身体を動かしたり、会話をしたりと、日々の暮らしの中でできることを意識してみましょう。自分でできることはたくさんあります。フレイルを予防することは、少しでも長く健康寿命を伸ばすことにつながるのです。
小学館の運営するサライ.jp内に、おいしい健康との特集ページ『いのちを守る食と暮らし』がスタートしました。コロナ禍を経験した私たちが、人生100年時代をどう健康に楽しく生きていくのかを考えていきます。
こちらにも、若林先生のインタビュー記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。
https://serai.jp/save-life
(トップ画像素材:PIXTA)