2.サポートとは、支援する側にも意義のあること

在宅医療のサポート

2021.01.07 更新

人間は、歳をとるにつれ、身体機能も認知機能も低下していくもの。高齢化が進むなか、人生の最後の10年はどうしても医療や介護が必要になるというのが現状です。というのも、健康上の問題がなく、普通に日常生活を送ることのできる期間のことを「健康寿命」と言いますが、今の日本ではこの健康寿命と平均寿命の差が広がってきているのです。

しかし、その状況を受け止め「加齢や病気に伴い心身の機能が低下しても、最後の瞬間まで安心・納得して生き切れるコミュニティをつくる」と考え、24時間対応の在宅総合診療を手がけているのが佐々木淳先生です。在宅医療の現状を通し、今どのようなことに気をつけたらいいのか、これからの在宅医療に必要なことについてお話をお聞きします。

2回目はサポートする側が、自立を支援するためにはどうしたらいいかというお話です。

支援とは、一方通行なことではありません

在宅医療に携わる佐々木先生の仕事は、一方的な支援ではないということを強く話します。先生自身が患者さんから元気をもらうこともたくさんある、と。

「ちょっと疲れて訪問診療に行くと『先生なんか疲れてるんじゃない?』って言ってくれたりする。その一言でこちらの心が救われるんです。『胸の音がきれいですよ』って伝えた認知症のおばあちゃんから『頭の中もすっかりきれいなのよ』って返されて笑い合ったりして。我々が一方的にやってあげてるわけではなく、何かもらえることもある。そういう関係性を築くことが大切で、それは医師じゃなくても誰でもできることだと思うんです」

介護という言葉には、どうしても一方的に支援を受けるというイメージがつきがちです。もちろん、介護サービスを受けることは、家族や友人たちの助けになることですし、必要な人はたくさんいます。しかし、大切なのは、どんな医療やサポートが必要かということ。身体や認知の機能が落ちた人にとって大切なことが何かを知るためには、いい関係性を築くことが必要ですし、それは医師や看護師以外にもできることなのです。

「たとえば、85歳まで生きた人があと5年くらいしか時間がないとして、週3日もリハビリをする必要があるかどうか、ということなんです。もしかしたら、本をたくさん読みたい、映画を観に行きたい、孫とおもちゃを買いに行きたいと思っているかもしれませんよね。『歩けるようになったら行きましょうね』って言ってリハビリしても永遠に歩けなかったら行けないわけです。介護度に合わせてリハビリを設定するような画一的な考え方は、高齢者を不幸にすると思っています。残された時間がこれだけだったら、この人にとって本当にいいことはなんなのかを総合的に考える。考えたうえで、その人が『自分の人生を生きている』と思えるような支援をすることが大切だと思うんです」

その人が幸せだと感じること、楽しいと思うこと、やりたいと願っていること。それを理解して支援するのは、確かに医師ではなくとも十分にできることです。介護が必要になったとしても、どうすれば快適に感じられるかを一緒に考えることこそが、自立支援に繋がるのでしょう。

「医師からは病気だから風呂入っちゃダメ、うなぎ食べちゃダメと言われ、ケアマネージャーさんからは時間割通りに生活してくださいと言われることもある。そうじゃなくて、自由に生きていいんですよ。もちろん、自分らしく生きるためには責任とスキルも必要です。全面的に医療介護に依存するのではなく、家族や友人、コミュニティ全体で相談しながら、時に在宅サービスを使いながらやっていけたらいいと思います」

ポジティブに捉えるよう、発想の転換を

誰しも歳をとる。介護が必要になることだってある。支援する側は、その状況を肯定的に捉えることがとても大切だと先生は続けます。人間対人間として接することが必要だ、と。

「我々自身も医師として関わるというよりは、一人の人間として接するというスタンスでいます。介護って生活のなかにあるものですからね。事実は変えられませんが、肯定的に捉えればいいんです。たとえばおむつ交換するという行為自体は変わらないんですから、相手に対して『トイレにも行けないのか』と思うのではなく、『おばあちゃん今日もいいウンチ出てるよ』って言ってあげればいい。お互いに気持ちよくすごせるはずです。要は、自分がその立場になった時にどういうふうに関わってもらいたいかということなんです」

佐々木先生自身も、訪問医療の現場で、ご家族のケアを考えて声をかけることもたくさんあります。

「寝たきりのおじいちゃんに『いいお顔されてますね、いつも穏やかな表情で癒されますね』と言うと、家族の方は『ありがとうございます』と返してくれるんです。がんばってきれいにしててよかったと思ってくれたらいいな、と。考え方次第なんですよね」

「やってあげている」のではなく、自分も元気をもらえるよう、サポートする。在宅で一緒に生活していくうえでは、お互いに気持ちよくすごせるように、ポジティブに捉える心持ちが大切です。

次回は、健康な在宅生活を送るための食事についてのお話です。

小学館の運営するサライ.jp内に、おいしい健康との特集ページ『いのちを守る食と暮らし』があります。コロナ禍を経験した私たちが、人生100年時代をどう健康に楽しく生きていくのかを考えていきます。
こちらにも、他の医師のインタビュー記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。

https://serai.jp/save-life
取材・文/おいしい健康編集部
写真/近藤沙菜