初期段階では、痛みやむくみなどのサインがほとんどなく、症状が出たころには進行している、ということが少なくないのが腎臓病の特徴。「ものを言わない臓器」とよばれるほどなのです。
「腎臓疾患は“気づきにくい“というのが一番のネックなんです。健康診断で数値に何かしら問題があったら、まずは病院に行ってみる。早期発見により、対処できることが山ほどあることを知ってもらいたいですね」
そう話すのは腎臓内科医の菅野義彦先生。患者さんと向き合う現場だけでなく、医療従事者の働く環境を考えた組織作りにも携わる、医師の“当たり前“を覆す歩みを伺いました。
静かに進行していく腎臓病に対して、危機感を持つきっかけを
腎臓は体内の老廃物を濾過し、体外に尿として出す「フィルター」のような役目を果たしている臓器です。腎臓にトラブルが生じているかどうかは、健康診断などで行う尿検査で、たんぱく質の量(尿たんぱく)を調べることでわかります。
「逆を言えば、医者のところに行かと分からないのが腎臓病の発見の難しいところです」
たとえば、心臓がドキドキして動悸が激しい、胸が痛いなど、症状が出てくれば病院に行こうと思うもの。
「しかし、腎臓病の場合、自分の尿を見ただけではまったく分からないわけです。せめて、尿検査でタンパク尿が出たときに真っ黒になるとか、煙が出るとか、“なんじゃこりゃあ!”と、危機感を抱く検査法があればいいと思っているんです(笑)」
検査数値の指標の変化で、病院に行こうという気持ちになってもらいたい。
腎臓の検査に足りないのが“なんじゃこりゃあ!”なんです、と菅野先生は力説します。
「数値の見え方が大事なんです。腎臓病かどうかの判断は、以前だと血液検査によるクレアチニンの数値が主流でした。クレアチニンは、男女ともに平均してだいたい上限1mg/dLが標準。1.2 mg/dLになったら僕としては大ごとなんだけど、患者さんからしたら、わずか0.2の上昇と思うわけです。これでは“なんじゃこりゃあ!”になりません」
2002年から腎臓の働きをしらべるeGFRの測定が導入されたことで来院する患者さんに変化が起きたといいます。
「GFR90以上が正常で、59以下で軽度から中程度、腎機能が低下していることになります。さきほどのクレアチニン1.2 mg/dLはGFR59に相当。90が標準で自分の数値が59となると『これはまずいぞ』という意識が芽生える。その効果は歴然で、eGFR測定を始めてから、来院する患者さんは増えました」
同じ数値でも、その値の表し方によって違うというわけです。クレアチニンの数値の見え方だけでは危機感を持つ人が少なかったため、早期発見につながりにくいということもあったかもしれません。きちんと臓器からのサインを見逃さないために、数値を理解することも大切です。
次回は、腎臓病と診断された後の治療法についてのお話です。
編集/おいしい健康編集部