小学校6年生のときに1型糖尿病にかかり、それがきっかけで医師をめざしたという市原由美江先生。現在は糖尿病専門の医師として活躍しています。1型糖尿病がどういう病気なのか、また、ご自身の病気がわかったきっかけやなぜ医師をめざすことになったのか、お話を伺うページです。
「4.1型糖尿病の妊娠と出産で気をつけることとは?」では、糖尿病患者が妊娠、出産に備えてどんなことを知っておくべきか、どう対応するかを聞きました。今回は、先生がふだん生活しているなかで低血糖になった際、どんな補食で対処しているかを伺います。
子どもを抱っこして歩いただけで、低血糖になってしまいました
インスリン量を増やし、きちんと栄養を摂ることで妊娠、出産を経た市原先生。出産後は、赤ちゃんのお世話が中心になり、低血糖の症状に悩まされたと言います。たとえば、インスリン注射を打った副作用で低血糖になっても、すぐに対策が取れなかったとか。
「低血糖時はすぐに糖質を摂らないといけないのですが、うまくできずに動けなくなってしまったことがありました。ハイハイしている赤ちゃんは目が離せないので、危なくないようにベビーサークルを活用することに。子供が囲いから出ないようにすれば安心です。私も一緒に入って過ごしたりしていましたね」
低血糖で動けない状態でも、赤ちゃんはお構いなしに活動しています。目が離せない状況なら、一緒にベビーサークルに入っていれば安心、というわけです。
成長してからも、お子さんと散歩をしている際に同じように低血糖になってしまったことがありました。
「たとえば、抱っこをせがまれて、子供を抱えて30分くらい歩いていると低血糖になってしまいましたね。でも、少しずつどういう時に低血糖になるかがわかってきたので、予防したり対応策を考えたりして乗り越えてきました」
その対策の一つが血糖値の計測器。リブレという簡単に自分で測ることができるものです。
「気になったら、すぐにピッと測るようにして、下がっている場合にはすぐに補食を摂るようにしています」
補食とは、簡単に口にすることができて、糖分を手軽に取れるためのものです。市原先生がよく口にしているのはジュース。
「家ではヤクルトを飲むことが多いです。糖分が10gのタイプだと計測しやすいので冷蔵庫に常備するようにして。補食としては飴などもよく紹介されますが、効果が出るまでに時間かかるんです。急に血糖値が下がった時にはすぐにあげられるよう、素早く飲んで糖分を摂取できるヤクルトがとても便利です」
仕事や生活スタイルに合った補食を見つけましょう
最近は、お子さんも少しずつ理解してきたようで、計測機で測る市原先生の姿を見て「ママ、低いの?」と心配そうに聞きながら、一緒にヤクルトを飲むのだそう。
「なんとなく私の病気のことをわかっているのかもしれませんね」
職場や外出先には、必ずラムネを携帯するように。柔らかくて口どけの良いタイプや、計測しやすい分量のものを常備しています。
「一個あたり、1ケースあたりの糖質の量を把握しています。すぐに溶ける柔らかいラムネをガーっと食べると大丈夫なんです。甘いものばかりだと飽きるので、他にもいろいろ自分なりの補食があります。炭水化物を含むおやつは数値が上がりすぎてしまうのでダメですが、こんぶや豆乳は大丈夫。慎重にならずに食べることができます」
さらに気をつけているのは、入浴時。意外とカロリーを消費するために低血糖になりやすいのです。
「あれ、低くなっちゃったかもと感じても、すぐに補食を食べられる状況ではありませんよね。かといって、ぐったりしてしまうと危険な場所です。だからいつもジュースを浴室に持ち込むようにして。ヤクルトだったり、野菜ジュースだったり、いろいろです。喉が乾くからちょうどいいんですよね」
先生自身、自分の体調に合わせ、楽しみながらあれこれ試してきました。おいしくて、無理なく食べられる補食を見つけてきたのです。緊急時にはこれさえあれば大丈夫というものがあれば安心ですし、数値が上がり過ぎない好みの補食があれば気にせず食べることができます。ぜひ、自分に合う補食を見つけてみましょう。
「6. 毎日の血糖値と上手につきあう」に続きます。
写真/近藤沙菜