4.若い心を保つためには、実年齢の2/3を目安に

在宅生活の心持ち

2021.01.22 更新

人間は、歳をとるにつれ、身体機能も認知機能も低下していくもの。高齢化が進むなか、人生の最後の10年はどうしても医療や介護が必要になるというのが現状です。というのも、健康上の問題がなく、普通に日常生活を送ることのできる期間のことを「健康寿命」と言いますが、今の日本ではこの健康寿命と平均寿命の差が広がってきているのです。

しかし、その状況を受け止め「加齢や病気に伴い心身の機能が低下しても、最後の瞬間まで安心・納得して生き切れるコミュニティをつくる」と考え、24時間対応の在宅総合診療を手がけているのが佐々木淳先生です。在宅医療の現状を通し、今どのようなことに気をつけたらいいのか、これからの在宅医療に必要なことについてお話をお聞きします。

4回目は、在宅生活を送る前に、年齢を重ねながら、どのような心持ちでいたらいいかというお話です。

実年齢よりも若い気持ちでいることが大切です

これから年齢を重ねるにあたり、私たちはどのような心持ちで過ごしていけばいいのでしょうか? いつか自分が介護を受ける立場になるかもしれないと想像しながら生活するのは、少し気持ちが辛くなってしまうものです。

「おすすめの一つは、自分の年齢を実年齢の2/3だと思うこと。たとえば60歳の人は今40歳だと考えてみてください。40歳って働き盛りですよね。60歳だと定年退職を迎えるかもしれませんが、40歳だと思うと、別の新しい仕事を考えられます。90歳の人は60歳ですから、そろそろ退職して休もうかと考えるくらいでいいと思うのです」

2/3にするということは、あながち大げさなことではないと、佐々木先生は続けます。というのも、日本人の体力は、昔に比べて高齢になっても衰えないという結果が出ているからです。

「文科省が『高齢者の体力テスト』というのを10年おきに行っているのですが、それによると体力は5歳ずつ若返っているんです」

たとえば、ある運動においてクリアの点数があるとします。1998年にクリアできた年齢が60〜65歳だったものが、2008年では70歳がクリアし、2018年では80歳がクリアしているのだそう。

「それでも2/3にするのは若すぎると感じる人は、12年引くというやり方もあります。72歳の人なら60歳ですね。12年という数字にも根拠があって、12歳若い気持ちで生活すると身体機能も認知機能も高くなるというアメリカの論文があります」

すぐに切り替えるのは難しくても、少しずつ想像しながら過ごしているうちに、いつしか若い気持ちが芽生えてくるかもしれません。心が身体に及ぼす影響はきっと少なからずあるはずです。

とっておきの方法は、若い友達をつくること

気持ちを若く保つために、若い世代の友人をつくるという手もあります。

「同世代と一緒にいると、つい『あの頃は良かったね』というノスタルジーに浸ったり、腰が痛い、最近忘れっぽいという話ばかりになります。しかし、自分よりも若い人と一緒にいると、そうも言っていられないはずです。実際、秋田県で行われた調査では、100歳でも元気な人には共通項があって、年の差のある友達がいるそうです」

違う世代の友人なら、刺激ももらえますし、一緒に楽しもうとあれこれ挑戦することも増えるかもしれません。興味の幅も広がりますし、身体にも心にもいい影響があるのでしょう。

さらには、コミュニティを作ることにもつながります。人とのつながりを持つことは年齢を重ねるうえではとても必要なことだと、最初のお話でお聞きしました。自分の強みを求めてくれる、知ってくれる人が増えるのはいいことに違いありません。

「仕事があると、若い人とのつながりを持ちやすいと思います。今携わっている仕事が90歳までできるかどうかわからないのであれば、別の副業を用意しておいてもいい。仕事があると、納品しなきゃいけないし、クレームも受けなくちゃいけないし、感謝の気持ちを受け取ることもあります。それが人と繋がることになりますよね。そうそう、ネットゲームもいいですよ。頭も使いますし、交流にもなるし、若い人と共通の話題を持つことができます」

人とのつながりが人生を豊かにする。若い人との交流がこれからの時間を楽しくしてくれる。そう考えて、柔軟に、好奇心を持ってすごしてみるよう、心がけてみましょう。

次回は、今の新型コロナウイルスの感染の不安がある中での過ごし方についてのお話です。

小学館の運営するサライ.jp内に、おいしい健康との特集ページ『いのちを守る食と暮らし』があります。コロナ禍を経験した私たちが、人生100年時代をどう健康に楽しく生きていくのかを考えていきます。
こちらにも、他の医師のインタビュー記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。

https://serai.jp/save-life
取材・文/おいしい健康編集部
写真/近藤沙菜