人間の体のほとんどを占めているのが「水分」。それだけに、体内に十分な水分量が保たれていないと、ちょっとした不調だけでなく、重篤な病を引き起こす可能性があります。
「逆に、脱水対策をしっかりしておけば、いろいろな病気の予防や治癒に繋がるんです」と話すのは、済生会横浜市東部病院周術期支援センター長兼栄養部部長の谷口英喜先生。麻酔科医として術前、術後の「痛み」や「水分」の管理をしていくなかで気づいたのが「患者さんが術前から脱水状態であること」でした。早い段階で水分や糖分を摂取することの重要性を伝え続け、それは日々の生活でも同じことだと話します。
脱水症は、日々の生活でも知らず知らずのうちに起こっているもの。とくに近年の夏は酷暑のうえ、マスク生活もあり、よりいっそう予防や対処法を知っておくことが必要になります。数多くの患者サポートに携わってきた谷口先生に、脱水症対策のノウハウや臨床現場でのやりがいについて伺いました。6回目は、マスクをする生活が続くコロナ禍の状況で、脱水症についてどのような対策をすべきか、というお話です。
水分を摂る場所と時間をしっかり確保しましょう
コロナ禍の2020年の夏、ある地域で熱中症によって病院へ搬送された患者さんを独自に調べたところ、28%の方が倒れる直前までマスクをつけたままだったことがわかりました。
「ということは、マスクをつけていたことが熱中症とかかわっていたと推測されます。マスク生活で問題なのが、水分補給がまめにできないのと、保湿効果があるので喉が乾きを感じにくくなることです」
喉が渇けば自然と水分補給をするものですが、それを感じにくくなっていると脱水症につながるというわけです。人前でマスクをはずすことに抵抗があり、こまめに水分補給をする機会も減ってしまっています。対策としては、出かける際には、きちんと水分補給できる時間を確保することと、マスクをとって水分補給できる場所を探すこと。
「マスクをはずすことでクールダウンにもなりますからね。大変な面もありますが、酷暑の期間は2ケ月程度。永遠に続くわけではないので、水分を摂ることをしっかりと意識しするようにしましょう」
運動と規則正しい生活を心がけてください
ステイホーム期間が長くなることで、気をつけたいのが運動不足です。第3回での話にあったように、筋肉量が減ると、身体が保持する水分量も減ってしまいます。
「若い方でも動かないと筋肉量が減ってしまいます。暑い時間を避けて、午前中にウォーキングするなど運動習慣つけることで、脱水症の予防につながります。人が少ない場所を事前に確認しておき、休憩しながら水分補給するなど、あらかじめ歩くルートを決めておくことをおすすめします」
また、テレワークにより昼と夜の境目がなくなり、生活のリズムが狂ってしまうことが不調の要因になることもあります。
「家にこもって仕事に没頭し、時間的感覚がなくなると、ホルモンバランスが崩れてしまいます。ホルモンは太陽の光を浴びて、時間を意識しないとうまく分泌しないんです。ホルモンバランス=自律神経なので、バランスが崩れることで体温調節などの機能にも支障を来してしまいます。規則正しい生活は脱水症の予防としても必要なことなんです」
現在のコロナ禍の状況でも、規則正しい生活を心がけ、水分をこまめに摂りつつ、体を動かすことを心がけて体調管理をしていれば、脱水症を防ぐことができるというわけです。
谷口先生は、健康のための脱水症対策の重要性を唱え、臨床現場だけでなく〝かくれ脱水〟といったキャッチーな言葉で発信し続けています。豊かなアイデアと実践力をもとに広いフィールドで伝えることで、たくさんの人の意識を変えてきました。先生が伝えてくれる正しい知識をもとに、しっかりと水分補給や対処法を心がけ、脱水症を予防するようにしていきましょう。
小学館の運営するサライ.jp内に、おいしい健康との特集ページ『いのちを守る食と暮らし』があります。コロナ禍を経験した私たちが、人生100年時代をどう健康に楽しく生きていくのかを考えていきます。
こちらにも、谷口先生をはじめとする医師のインタビュー記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。
https://serai.jp/save-life