「栄養指導室」と書かれたドア。中に入ると、壁には食品の栄養成分表が貼られ、棚には茶碗に入ったご飯や器に入ったサラダ、切り身の鮭など、さまざまな食品のサンプルが置かれています。ここが、時田美恵子さんの仕事場。管理栄養士・糖尿病療養指導士として東埼玉総合病院で働いています。時田さんは、どのような経緯で管理栄養士を目指したのでしょうか。また、日々、どんなことを大切にして患者さんに接しているのでしょうか。お話をお聞きしました。
医師や療法士さんたちとチームで患者さんのケアをしています
食事の大切さを伝えたいという思いを持ち続け、2014年からは現在の勤務先である東埼玉総合病院に。主に糖尿病患者さんに対しての食事指導を担当しています。
「この病院はチームで患者さんに関わるようにしています。私自身も『糖尿病療養指導士』の資格を取りました」
日本糖尿病学会の認定指導医や専門医はもちろん「糖尿病生活支援スタッフチーム」として、「糖尿病療養指導士」の資格を持つ看護師や薬剤師、そして時田さんのような管理栄養士、さらに理学療法士や臨床検査技師、ソーシャルワーカーがチームとなって、さまざまな面から治療をサポートしています。
「患者さんの身体や心のこと、治療に関わる生活習慣についてなど、情報はチームできちんと共有します。カンファレンスをして、一人暮らしでも料理ができるのか、家族と同居でもインスリン注射はきちんとできるのかなど、いろいろと細やかに検討することが大事だからです。糖尿病では栄養指導はとても重要ですが、服薬や運動も大きく関わってくるので全体を見るようにしなければいけません。食事療法を続けるための環境も大切ですし、できるだけ患者さんのお話を聞いて寄り添う治療を考えています」
食事指導は、ただ料理を提案するだけではないんです
実際に時田さんが食事療法を指導する際には、なぜ今の食事のスタイルになっているのか、原因をきちんと把握するようにしていると言います。食事の内容だけでなく、できる範囲で暮らしの様子を聞くようにしている、と。
「たとえば『1日3食、決まった時間に食べています』と言う方でも、具体的に聞いてみるとコンビニで買っていたりします。その内容は、おにぎりと焼きそばと炭水化物ばかりということも。さらに話を聞いてみると、食事の間に甘い缶コーヒーを何本も飲んでいたりもするんです。理由を聞いてみたら、トラックの運転手さんで眠くなるから飲んでしまう、と。忙しく働いている方に、いきなり自炊してお弁当を作りましょうというのは無理がありますよね。なので、コンビニでどんなものを選んだらいいかを一緒に考えていきます。できるだけ砂糖入りコーヒーではなく、ブラックコーヒーやお茶を選ぶように心がけていただくようにお話しします」
一人ひとりの生活や仕事のことを知って、
一緒に考えるようにしています
そのほかにも、ついお菓子を食べすぎてしまう人の話を聞いてみると、思春期の子供を抱えてストレスが溜まっているということもあったそう。また、朝ごはんを食べていないのに血糖値が高いために話を聞いてみると、よく飴を口にしていることがわかったこともあれば、1日2食で間食が多くなっている方の原因は、親の介護をしていて時間がないという場合もあったそう。人によって、暮らしによって、さまざまな生活習慣があり、食事の仕方も異なるということがよくわかります。
「仕事上、どうしても食べなければならない人もいます。例えば、糖尿病の患者さんには、ラーメン店の店主さんも多いんです。普段の食事は気をつけているのに、毎日、新人が作ったラーメンの味を食べて確認しなくてはいけない、と。仕事だからやめることはできませんよね。かといって、食べ続けることもすすめられません。あくまでも味見として、一杯すべては食べないように調整してみるといったことを提案します」
食事以外にも、運動を少しでも取り入れることを提案することから、体を動かすことが億劫ではないかを確認していると話します。
「患者さんを待合室からお呼びする際には、椅子からどう立ち上がるかを見ています。すっと立てれば大丈夫ですが、『よっこいしょ』と時間がかかる方は、運動するのも面倒に感じるからです。歩くときにも足を引きずっていないか、姿勢がおかしくないか、確認するようにしています。少しの変化で、家から出なくなることもありますし、そこから食べすぎになってしまう方もいるからなんです」
患者さん一人ひとりを大切に思い、適切な指導ができるようにと心を配っていることが伝わってきます。
次回は、具体的な食事療法についてお聞きします。
写真/近藤沙菜