日々の暮らしの習慣が積み重なって起こる生活習慣病。なかでも2型糖尿病は、患者数が328万人を超え(※1)、過去最多を記録しています。さらに、糖尿病を発症する可能性を持つ予備群は1000万人(※2)いると言われ、私たちにとってとても身近な病気です。
矢作直也医師は、糖尿病専門医として日々治療と研究に向き合い、食事療法の大切さを伝え続けてきました。「おいしい健康」のサイトでも、「糖尿病(2型)の食事のきほん」の監修や「筑波大学附属病院×おいしい健康 1週間あんしん献立」の基準作成などを手がけ、正しい知識や食事の仕方について教えていただいています。
そんな矢作先生が、なぜ医師を目指し、なぜ糖尿病の専門医になったのか。経緯だけでなく、今考えていることや取り組んでいることについてのお話をお聞きしました。
※1厚生労働省「患者調査」2017年 ※2厚生労働省「国民健康・栄養調査」2016年
良質な糖尿病食を伝えたいという強い気持ちがありました
医師だからこそできることを考えつつ、患者さんの立場に立って伝えられることを模索し、食事療法に向き合ってきた矢作先生。患者さんや予備群の方々に指導するなかで、さまざまな施策を考えて実行してきたと言います。そのなかのひとつが「筑波大学付属病院×おいしい健康 1週間あんしん献立」です。
これはもともと「筑波大学の安心献立」として、2013年にリリースしたプロジェクト。筑波大学附属病院の内分泌代謝・糖尿病内科と栄養管理チーム(病態栄養部)が現場のノウハウを集め、「おいしさ」と「ヘルシーさ」を両立した献立をクックパッド株式会社と共同開発したものです。
「開発当初は、クックパッドにあった人気レシピから厳選し、さらに手を加えて全体の栄養バランスを整えていったんです。『糖尿病食はまずい』という偏見を打破し、患者さんの助けになるような、良質な糖尿病食の情報を伝えたいと考えていました」
その後、クックパッドのヘルスケア事業部が「おいしい健康」となり、この取り組みは2020年にリニューアル。おいしい健康のサイトで「筑波大学附属病院×おいしい健康 1週間あんしん献立」として続いています。筑波大学附属病院チームとおいしい健康の管理栄養士とが連携して、糖尿病患者さんに役立つレシピを届けるべく、日々試作を続け、献立を生み出しています。
糖尿病食は、おいしくて健康的なものです
「糖尿病食」と聞くと、どうしても制限があるものだと思い込みがちです。食べてはダメなもの、取り入れられないものが多いのではないかと考えるだけで、料理をしようという気持ちが削がれてしまうものです。
「制約ばかりでおいしくないという思い込みを払拭したかったんです。難しい調理も必要なく、簡単にできて、おいしい糖尿病食献立を考えたいという思いでした。というのも、私が日々患者さんに接していて感じていたのは、いくら食事療法の大切さを伝えても、なかなか続けられないということでした。どうしてなのか聞いてみると、カロリーや栄養素の計算が面倒になってしまう、と」
面倒に感じると、どうしても同じものを繰り返し作ることに。結果、ワンパターンな献立になって飽きてしまい、続けられない人が増えてしまっていたのです。
「それなら、きちんと計算した献立を提案してあげたらいい。あるいは、自分で栄養計算を簡単にできるようにしてあげる。今の時代、スマホの力をフルに活かせば決して難しいことではありません。『これを作って食べていたら大丈夫だよ』というものを伝えることで、食事療法を続けてほしいという思いがありました。患者さんが日々の生活の中で無理なく続けられる、簡単にできる糖尿病食の献立を伝えるしかないと思ったんです」
まず、エネルギーや食物繊維、コレステロールや塩分量などが、きちんと医師や管理栄養士が設定した基準値内であること。そして、スーパーで気軽に手に入る食材を使うこと。難しい工程がなく、簡単に作れること。見た目にもおいしそうで食べたいと思えること。これらのさまざまな要素を満たす献立を考えるようになっていったのです。
「実際に私も試食しますが、どれもおいしく、こんなに豊かな献立になるのかと驚きます。実際、量さえ気をつければそれほどの制約はないんです。糖尿病の食事ってカロリー(エネルギー量)制限ばかりが注目されてしまいますよね。そうすると気持ちが滅入ってしまう。でも、そもそも、消費エネルギー量を超えたカロリー制限、つまりは、消費エネルギー量未満に抑える必要があるのは、オーバーウェイトの減量期の方だけなんです。糖尿病であってもなくても、1日に消費するエネルギー量は同じじゃないですか。ということは、糖尿病でも安定期や維持期の方は、標準的な摂取エネルギー量を守っていれば大丈夫なんです。なので、糖尿病食は、本当は糖尿病や予備群の方だけでなく、健康的な食生活を送りたいすべての方におすすめできるものなんですよ。今日の献立どうしよう?と悩んでいる方にもぜひ見てもらいたいと思っています」
次回は、予防のために必要なセルフケアについてのお話です。
写真/近藤沙菜