厚生労働省の「令和3年簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳となりました。ただし、健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)は、男性は約9年、女性は約12年、平均寿命より短くなっています。
高齢化が進む中、国民一人ひとりの生活の質を維持し、かつ社会保障制度を持続可能なものとするためには、健康寿命と平均寿命との差を縮小することが早急の課題です。
そこで、日々の診療に並行して、老化、高齢者の病気、生活習慣病をテーマに研究を続けている横手幸太郎先生に、これまでの研究を通してわかってきた健康寿命を延ばすために必要なことについて伺います。
第1回は、横手先生がなぜ高齢者に関心を持つようになったのか、歩んできた道についてのお話です。
高齢者のリハビリの効果に、強い衝撃を受けました
子どものころ、祖父母と同居していたことから人が年をとっていく過程を身近に見てきたという横手先生。千葉大学医学部附属病院で内科医としての道を歩みながら「人は年をとるとなぜ動脈硬化や、高血圧症、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病になるのか」ということに興味を持ったといいます。まずは、高齢者を徹底的に診ることから始めようと、東京老人医療センターで研修を受けることに。
「東京老人医療センターは、当時、千葉大学の関連病院ではありませんでしたが、先輩にお願いして 2年間研修を受けさせてもらいました。東京老人医療センターは、診療科に産科と小児科がないだけの、日本でも数少ない高齢者の総合病院です。当時、東京都も力を入れていたので設備が充実していて、研究所もありました」
そこでとくに印象に残ったのは、リハビリテーションの効果だったと言います。これまで脳卒中などの病気になると、患者の多くは体が不自由になる後遺症が残り、その後の生活の質が下がるのが当たり前とされていました。しかし、東京老人医療センターでは違ったのだそう。
「理学療法士さんたちが時間をかけて、根気よくリハビリを行うことで、手足が動かなくなってしまった患者さんが、病気になる前の状態に近いところまで回復していきました。その姿を見たときは強い衝撃を受けましたね。人は病気や老化によって身体の機能が一時的に低下したとしても、時間をかけて適切な訓練を行えば、また前の生活に戻ることができる。プロの力は本当にすごいと思いました」
これらの経緯があって、横手先生は生活習慣病とともに、高齢者の健康をテーマに取り組んでいこうと決心したそうです。
日本の高齢化は社会問題になると予想していました
「今でこそ、日本人の人口比率で高齢化率が30%に届きそうですが、ぼくが医師になりたてのころは、10~15%程度でした。けっして多い年齢層ではありません。一方、そのころから徐々に平均寿命が延びる傾向にあり、これからは間違いなく高齢者の割合が増え、そのこと自体が社会問題になっていくだろうと想像できました。ぼくは医療の側面からその問題に取り組んでいきたいと思ったんです」
横手先生が次に取り組んだのが老化によって起こる動脈硬化でした。
第2回では横手先生がどのような研究を通して、動脈硬化の解明にアプローチしたのかについて伺います。
編集/おいしい健康編集部