人間の体のほとんどを占めているのが「水分」。それだけに、体内に十分な水分量が保たれていないと、ちょっとした不調だけでなく、重篤な病を引き起こす可能性があります。
「逆に、脱水対策をしっかりしておけば、いろいろな病気の予防や治癒に繋がるんです」と話すのは、済生会横浜市東部病院周術期支援センター長兼栄養部部長の谷口英喜先生。麻酔科医として術前、術後の「痛み」や「水分」の管理をしていくなかで気づいたのが「患者さんが術前から脱水状態であること」でした。早い段階で水分や糖分を摂取することの重要性を伝え続け、それは日々の生活でも同じことだと話します。
脱水症は、日々の生活でも知らず知らずのうちに起こっているもの。とくに近年の夏は酷暑のうえ、マスク生活もあり、よりいっそう予防や対処法を知っておくことが必要になります。数多くの患者サポートに携わってきた谷口先生に、脱水症対策のノウハウや臨床現場でのやりがいについて伺いました。4回目は、実際にどのような時にどう水分補給をしたらいいのか、具体的な対策についてのお話です。
食べ物からも水分を摂ることが大切です
脱水症を引き起こさないためには、どのように水分を補給すればいいのでしょうか。
「一般的には、1日あたり体重の40倍ほどの水分量を摂っていただきたいです。50kgの方でしたら2000ccくらいになります」
2000ccというと2ℓ。かなりの量の水分を飲まなければいけないと思ってしまいます。しかし、すべてを飲み物から摂るわけではないと谷口先生は続けます。
「だいたい半分は食事から、残りの半分を飲み物で摂取するのが理想的です。なぜ半分を食事で摂るのがいいかというと、食べ物からの水分のほうがゆっくり体に入るので体に残りやすいからなんです。一般的な食事量の場合、1食あたり500ccの水分量をまかなえるといわれているので、食が細い高齢者でも300ccは摂れているはずです」
1日3食の食事をしっかりと摂ること、さらに、汁物を含めた献立にすると、食事からの水分を摂りやすくなるというわけです。
塩分や糖分の少ない飲料を選びましょう
では、飲み物では、どのようなものを選んだらいいのでしょうか?
「水やお茶がベストです。コーヒーはカフェインが入っていますが、飲んですぐにトイレに行くことがなければ飲んでも構いません。カフェインは耐性がつくので飲み慣れてくると、体に水分が残りやすくなります」
ジュースやアルコール類の飲料では水分を補給することは可能なのでしょうか?
「糖分が多く含まれているジュースはおすすめできません。血糖値が上がることで満腹感を感じやすくなってしまうんです。食事の量が減ってしまって必要な栄養がとれないのが問題です。アルコールは、みなさんご存知のように利尿作用があるので水分補給にならず、逆に体から水分を奪ってしまいます」
水分の多くは、小腸で吸収されますが、アルコール飲料は胃にある血管から吸収されて身体に回っていくのだそう。その働きで飲んだ量以上の水分が排出されてしまうというわけです。アルコールを摂取する際は、水分の多い食べ物を口にすることで脱水症状を防ぐことにつながると言います。
「例えば、ビールを飲む前にきゅうりやトマト、豆腐といったお通しを食べるのも、実は理にかなっているんです。おつまみを食べずにお酒だけを飲む人は脱水症を起こしやすいので、注意しましょう」
食欲が落ちがちが季節ですが、きちんと食べたうえで、水やお茶を頻繁に摂るように心がけるようにしましょう。次回は水分を摂るタイミングと、経口補水液についてのお話です。
小学館の運営するサライ.jp内に、おいしい健康との特集ページ『いのちを守る食と暮らし』があります。コロナ禍を経験した私たちが、人生100年時代をどう健康に楽しく生きていくのかを考えていきます。
こちらにも、谷口先生をはじめとする医師のインタビュー記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。
https://serai.jp/save-life