3. 普段の生活でも起きている脱水症

脱水症の原因と対策

2021.07.20 更新

人間の体のほとんどを占めているのが「水分」。それだけに、体内に十分な水分量が保たれていないと、ちょっとした不調だけでなく、重篤な病を引き起こす可能性があります。

「逆に、脱水対策をしっかりしておけば、いろいろな病気の予防や治癒に繋がるんです」と話すのは、済生会横浜市東部病院周術期支援センター長兼栄養部部長の谷口英喜先生。麻酔科医として術前、術後の「痛み」や「水分」の管理をしていくなかで気づいたのが「患者さんが術前から脱水状態であること」でした。早い段階で水分や糖分を摂取することの重要性を伝え続け、それは日々の生活でも同じことだと話します。

脱水症は、日々の生活でも知らず知らずのうちに起こっているもの。とくに近年の夏は酷暑のうえ、マスク生活もあり、よりいっそう予防や対処法を知っておくことが必要になります。数多くの患者サポートに携わってきた谷口先生に、脱水症対策のノウハウや臨床現場でのやりがいについて伺いました。3回目は、脱水症の原因や、身体にあらわれるサインについてのお話です。

水分が失われると臓器の機能が低下してしまいます

改めて脱水症について教えていただきます。脱水症とは、身体がどのような状態になっていることを指すのでしょうか?

「身体から水と電解質(塩分)が減っている状態のことを脱水と言います。食欲不振や加齢でなることもあれば、下痢や嘔吐などで急激に脱水になることもあります。そもそも、人間の臓器の多くは、水分でできています。ホルモン焼き屋さんで内臓を食べると身が縮んで小さくなりますよね。それだけ水分が多いということ。特に脳と筋肉、消化器の3つの臓器は、その9割が水分で作られているんです」

水分の多い臓器から水分が失われると、その臓器は機能しにくくなってしまいます。たとえば脳では、思考力の低下などの影響が起こり、筋肉の場合は、力が入らず、倦怠感を感じることもあります。消化器に影響があると、食欲がさらに減退したり、腹痛や発熱、下痢、便秘を引き起こすことにつながるというわけです。

起床時に脱水症になっていることもあります

「脱水状態というのは、手術室や病院内だけでなく日常生活のなかで起きていることなんです。多くの方が経験しているのが朝起きた時。特に先ほどの脳と筋肉、消化器の症状が出やすい状態なんです。頭がぼーっとする、だるさがある、力が入らないといった症状は主に脱水が原因と言っていいでしょう。実際に、水を飲んだり、朝食を摂ったりして改善されていきます。つまり、病気の人だけがかかっているわけではないんです」

熱中症が起こりやすい夏に脱水が起きやすいというのは、ここ数年広まってきたことです。しかし、脱水症は、夏に限らず、年間を通して日常的に起きているということ。私たちはそれに気がつかず、自覚症状がないまま過ごしているのかもしれません。

「夜寝る前などに水分を摂らない方は、半日くらい水分が失われている状態になりますよね。だからこそ、朝食は摂ったほうがいい。忙しい時は固形物でなくてもいいので、スポーツドリンクを1本飲むなどして、水分を補給してほしいんです」

サインを見逃さないようにしましょう

日常的に起きている脱水症ですが、特に気温が高くなる季節には気をつけなければなりません。自分では気づかないうちに起きていることもあると言いますが、早めに気づくためのサインを教えてください。

「想像しやすいように言うと、お酒を飲んだ翌日に起こる二日酔いの症状がサインと言えます。頭がぼんやりしたり、記憶力が低下したり。ひどくなると頭痛がしてきて、食欲が低下し、気持ち悪くなります。さらに進むと、筋肉に影響が出て、こむらがえりが起こったり、全身に倦怠感が出てきたりする。これらはすべて脱水症のサインだと考えてください。必要不可欠な水分が奪われると、途端に危険信号を出して、頭が痛い、気持ち悪いといった症状が出てくるわけです」

頭痛や筋肉痛、倦怠感などは、脱水症が原因だと思わないかもしれません。自覚がないまま、なんとなくだるさを感じたり、ぼんやりしたりしている人も多いのではないでしょうか。まずは、脱水症を疑って、朝起きた時の対処法と同じように水分を補給するように気をつけましょう。

年齢を重ねると暑さを感じにくくなります

夏になると高齢者の熱中症によるトラブルのニュースをよく耳にします。年齢を重ねていくにつれて、熱中症を起こしやくなるのはなぜなのでしょうか。

「加齢現象によって脱水になりやすい体に変わっていくからなんです。最も顕著なのが筋肉量の減少。年齢を重ねると、特に下半身の筋肉量が落ちてきてしまいがちです。先ほどお話したように、筋肉の90%が水分なので、筋肉が少なくなることによって体内の水分量も減ってしまうわけです」

つまり、水を飲んでも筋肉というタンクが小さいため、ストック量が少なくなってしまうということ。暑さによる熱中症で水分が奪われると、より危険な状態に陥りやすくなるのです。さらに、もうひとつの要因は、暑さを感じるセンサーが弱まる加齢現象。

「人間が生きていくために、本能的に寒さを感じる皮膚の神経は、年齢を重ねてもそれほど衰えないのですが、その分、暑さを感じる神経が鈍くなってきます。熱いお風呂が好きになる、というのはまさしく加齢によるもの。だから、室内でも温度管理はしっかりしたほうがいいです。熱中症によって部屋で倒れていた人の多くは、エアコントラブルが原因なんです。壊れていたり、リモコンの電池が切れていたり。なかには、ボタンを押し間違えて暖房にしていた方もいる。高齢者のいる家庭では、早めにエアコンの点検をして修理したり、新しいものに買い換えたりなどしてください」

とくに、認知症を患っている方は注意が必要。十分な水分量が不可欠な脳に水が届かなくなると、機能が低下してしまうため、認知症が進行しやすくなります。同居のご家族などは、水分補給を怠らないようにケアしてあげることが大切です。

どのようなサインが起こるのかを知り、早めの対策を心がけましょう。次回は、実際にどのような時にどう水分補給をしたらいいのか、具体的な対策についてのお話です。

小学館の運営するサライ.jp内に、おいしい健康との特集ページ『いのちを守る食と暮らし』があります。コロナ禍を経験した私たちが、人生100年時代をどう健康に楽しく生きていくのかを考えていきます。
こちらにも、谷口先生をはじめとする医師のインタビュー記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。

https://serai.jp/save-life

取材・文/梅崎なつこ