月経不順、生理痛、不妊、更年期、尿もれ……。女性のからだの悩みは、年齢ごとに変わっていくものです。ところが、いざ症状に直面したときにどの科で診てもらえばいいのかわからない……。そんな不安に応えようと東京の下町・木場で女性のための総合的な医院「東峯婦人クリニック」を開いたのが松峯寿美先生です。
不妊で悩んだ自身の経験をいかした不妊治療を始め、出産や産後ケアなど、女性にとって大事なライフイベントを支える、懐の深いホームドクター。トラブルがあった時には「心配しないで大丈夫!」という気風のいい言葉が、患者さんの心を落ち着かせる良薬にもなっています。キャリア50年以上のベテラン医師が見てきた出産、産後のこと、今だからこそ伝えたいことを伺いました。
前回は女性ならではのケアについてのお話を伺いました。最後は、松峯先生が考えるこれからの過ごし方についてお聞きします。
患者さんの言葉から元気をもらっています
松峯先生はこれまで1万人以上の赤ちゃんを取り上げてきました。誕生の幸せな瞬間もあれば、産声をあげることなく終わりを告げてしまった時もあったと言います。
「いろんなことがありましたが、この仕事をやっていてよかったと思うのは、うちで出産した方が『今度は娘がこちらでお世話になります』と言ってくれること。旅先で偶然会って『私、先生のところで産んだんですよ』と声をかけていただいたこともあるんです。驚きました(笑)」
医師と助産師たちがチームとなって取り上げた赤ちゃんが、それぞれの人生を歩み、妊娠し、次の世代の命が誕生する。その繋がりに携わることは、多くの出産の光と影を見てきた松峯先生だからこそ、価値あることだと実感しているのでしょう。
「最近は、ワクチン接種をするために、だいぶ昔に出産した患者さんが久しぶりにいらっしゃる機会が増えました。懐かしいわねえ、って話をするのも楽しいんです」
男女の関係が希薄になっているのが心配です
人との繋がりを大切にしてきた松峯先生が、最近、患者さんたちを見ていて気になることがあると言います。
「このごろは女性の経済力がついたこともあって、強くなりました。いいことでもあるんですけど、夫とうまくいかなくなったらすぐに離婚という方が増えている気がします。離婚しても養育費がもらえて生活できるので、お互いに歩みよる努力をせずに関係を断ち切ってしまう。ヒューマンリレーションを大切にする教育を若い世代にしなくてはいけないと感じています」
電話をして声を聞く。会って顔を見て話す。人間関係においての当たり前に行われてきたコミュニケーションが、メールやオンラインの普及で崩れ始めているという現実があります。
「コロナウィルス蔓延によって世界がリセットされました。一から立て直すタイミングで人間らしい関係性が築けるようになったらいいと思っています。直接会わないと血色だってわかりませんからね」
出産して家族を作っていくプロセスにおいて欠かせない、体温を感じる人間関係や相手を大事に思う気持ち。それは、出産時だけでなく、不妊治療の間や更年期の時期には必要なこと。そして、女性に限らず、どんな人にとっても大切なことです。
相手を思いやり、想像し、行動する。コミュニケーションをとって、交流し、信頼を積み重ねていく。そんな風に意識して築いていくことが、心身ともに健やかでいられる秘訣なのです。
取材・文/梅崎なつこ
写真/近藤沙菜