2.治療をするうえで重要な栄養指導

うつ病と食事

2021.12.21 更新

やる気が出ない、何をしても疲れやすい、不安でじっとしていられない……。うつ病は、憂うつな気分が毎日続き、ものごとへの関心や興味、喜びを感じられなくなる病気です。一般的な治療としては、薬物療法(抗うつ薬などの処方)と精神療法(カウンセリングなどの心理学的アプローチ)を中心に行われてきました。しかし、近年、栄養療法(栄養学的アプローチ)の重要性が注目されるようになり、海外では診療の場で実践されつつあります。

うつ病を予防し、改善するには、どのような食事をとればよいのでしょうか。「うつ病と栄養」に詳しい、帝京大学医学部精神神経科学講座教授の功刀浩先生にお話をうかがいました。

軽快な語り口、「うつ病と栄養」に関する新たな知見、「大丈夫」というメッセージを届けてくれる診療スタイルに、人生を前向きに歩んでいく勇気がわいてきます。第2回は、うつ病患者さんに行っている栄養指導と、うつ病の予防や改善に効果的な栄養素について教えてもらいました。

体だけでなく、心の病気を治すのにも栄養が大切です

従来のうつ病の治療は、薬を飲みながらしっかり休養をとり、必要に応じて精神療法を受けるのというのが一般的です。神経科や精神科、心療内科、メンタルヘルス科など、どの科においても、同じ考え方が浸透しています。

「現在のところ、日本の精神科医のほとんどは、薬物療法と精神療法をメインに学んでいて、栄養についてはほぼ知らないという状況です。『摂食障害』という食べることに関連する心の病があるにもかかわらず、です。そのため、精神療法のための心理士がいるメンタルクリニックは多いですが、栄養指導を行う管理栄養士のいるクリニックはほぼないのです」

こうした状況では、多くの人が「うつ病を改善するのに栄養が大切」と認識できないのは当然かもしれません。薬を飲み、カウンセリングを受けることだけが治療だと思っている人も多いのです。

「診療の際には、体の病気と同じように心の病気を治すのにも食べ物からの栄養が大切だと、まず患者さんに伝えるようにしています。それから、管理栄養士さんに具体的な栄養指導をお願いするような流れにしています」

功刀先生は管理栄養士さんに「朝食はきちんと食べましょう」「ジュースをやめて緑茶を飲みましょう」といった、シンプルで具体的な指導をお願いしているそう。わかりやすい栄養指導は、患者さん本人だけでなく、サポートする家族にも大切なことです。

「うつ病患者さんは、頭にブレーキがかかったかのように思考が遅くなり、集中力や能率が低下する傾向にあります。そうすると、複雑なカロリー計算などはハードルが高いんです。献立を考えたり料理をしたりするのが億劫になる人が多い。具体的な指導があれば、難しく考えずに料理をすることができます。また、サポートするご家族がいる場合は、患者さんの代わりに献立を考えたり、食材の買い出しや料理をしたりするといいですよと伝えます。患者さんの負担になっているストレスを減らすことにつながり、回復に役立つからです」

生活習慣病になりにくい食事が、うつ病を改善します

では、うつ病の症状をやわらげるための食事について、まず気をつけることはなんでしょうか?

「基本的なことですが、栄養バランスのよい食事を、規則正しくとることが大事です。うつ病の初期は、食欲低下を引き起こすことが多いので、やせているイメージがあるかもしれません。しかし、実際には、肥満傾向の人も少なくないのです。じつは、エネルギーの過剰摂取によって起きる肥満やメタボリック症候群、糖尿病などに罹患しているとうつ病の発症リスクが高まることは、海外では常識になっています」

うつ病と生活習慣病とは双方向の関係にあり、うつ病の人は肥満やメタボリック症候群、糖尿病になりやすく、肥満やメタボリック症候群、糖尿病の人は、うつ病になりやすいといわれているのだそう。

「肥満やメタボリック症候群はうつ病のリスクを1.5倍に高め、逆にうつ病は肥満やメタボリック症候群の発症リスクを1.5倍に高めることがわかっています。さらに、うつ病の人は健康な人よりも糖の代謝異常が多く、日本の糖尿病患者さんの36.4%がうつ病の症状を持っていたという報告もあります。また、うつ病患者さんには中性脂肪高値や善玉コレステロール低値といった脂質異常症も高い頻度でみられます。(※1)うつ病と生活習慣病の両方を防ぐために、エネルギーを過剰摂取しないよう心がけ、たんぱく質・脂質・炭水化物の適切なバランスを保つようにしましょう。ごはんなどの主食は、軽めにするのがポイントです」

肥満やメタボリック症候群、糖尿病を治療すると、うつ病の症状も改善する患者さんが少なくないといいます。うつ病も生活習慣病も、食生活を見直すことで改善されることは大いにあるのです。

次回は、より具体的な食事の仕方についてお話をお聞きします。

※1 参考:Luppino, F.S., de Wit, L.M., Bouvy, P.F., Stijnen, T., Cuijpers, P., Penninx, B.W., Zitman, F.G. 2010. Overweight, obesity, and depression: a systematic review and meta-analysis of longitudinal studies. Arch. Gen. Psychiatry 67, 220-229. 

日本の糖尿病患者にうつが多い:Yoshida, S., Hirai, M., Suzuki, S., Awata, S., & Oka, Y. (2009). Neuropathy is associated with depression independently of health-related quality of life in Japanese patients with diabetes. Psychiatry and clinical neurosciences, 63(1), 65–72. 

https://doi.org/10.1111/j.1440-1819.2008.01889.x

小学館の運営するサライ.jp内に、おいしい健康との特集ページ『いのちを守る食と暮らし』があります。コロナ禍を経験した私たちが、人生100年時代をどう健康に楽しく生きていくのかを考えていきます。
こちらにも、功刀先生をはじめとする医師のインタビュー記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。

https://serai.jp/save-life
取材・文/綾城和美
編集・文/おいしい健康編集部
(トップ画像素材:PIXTA)