1. 脱水が患者さんに与えるストレスとは?

脱水とストレス

2021.07.09 更新

人間の体のほとんどを占めているのが「水分」。それだけに、体内に十分な水分量が保たれていないと、ちょっとした不調だけでなく、重篤な病を引き起こす可能性があります。

「逆に、脱水対策をしっかりしておけば、いろいろな病気の予防や治癒に繋がるんです」と話すのは、済生会横浜市東部病院周術期支援センター長兼栄養部長の谷口英喜先生。麻酔科医として術前、術後の〝痛み〟や“水分”の管理をしていくなかで気づいたのが「患者さんが術前から脱水状態であること」でした。早い段階で水分や糖分を摂取することの重要性を伝え続け、それは日々の生活でも同じことだと話します。

脱水症は、日々の生活でも知らず知らずのうちに起こっているもの。とくに近年の夏は酷暑のうえ、マスク生活もあり、よりいっそう予防や対処法を知っておくことが必要になります。数多くの患者サポートに携わってきた谷口先生に、脱水症対策のノウハウや臨床現場でのやりがいについて伺いました。

脱水は、身体的にも精神的にもマイナスなんです

谷口先生の専門は麻酔科。がん、心臓病、出産の帝王切開、骨折など、さまざまな手術に関わっています。麻酔科医として「脱水」に着目したのは、どのような理由からなのでしょうか?

「手術前日の患者さんたちは、水や食事が制限され、場合によっては下剤を飲むことがあります。これまでは、手術が終わってもすぐに水が飲めるわけでなかったので、結果的に半日近くは脱水状態でした。しかし、脱水症は血圧を下げたり痛みを増強させたりといった身体的なマイナス面に加えて、精神的にも悪影響を及ぼします。空腹感、イライラ感、焦燥感、不安感がものすごく強くなる。そういったメンタルストレスを含め、水を一杯飲むだけでも改善されるんです」

麻酔科医として、さまざまな患者さんを診ていくなかで、脱水症を解決していくことが体と心の回復スピードを上げることに繋がると実感したと言います。

手術の直前まで水分や糖分を摂っていいんです

谷口先生は術前、術後の患者さんサポート体制の強化をはかるため、2016年に済生会横浜市東部病院内に患者支援センターを立ち上げました。術中の脱水症対策としては、自身が開発した「術前経口補水療法」を採用。術前の点滴をやめて、“飲む点滴”と呼ばれる経口補水液を患者さんに飲んでもらうことで、喉の渇きや空腹感を緩和し、安全に麻酔や手術を行えるようにサポートしていったのです。

水分だけでなく、栄養面においてもしっかり摂ることが必要だという谷口先生は話します。

「最近では、手術の2時間前まで糖質を摂ったほうがいいと言われています。それはスポーツの世界ですでに証明されていること。たとえば、スタートの2時間前くらいに炭水化物を摂ることで、グリコーゲンというエネルギー源が筋肉や肝臓に溜まってパフォーマンスが上がると言われています。手術の現場においても同じ考えが浸透していて、術前に絶食するという状況は少なくなっているんです」

ちなみに、糖質を制限しなければならない糖尿病の患者さんの場合も、コンスタントに炭水化物を摂ると、血糖値の急激な上昇を防ぐことができます。血糖管理がしやすくなるので、術前の糖分摂取は効果的と考えられているのだそう。

谷口先生は、目の前の患者さんの状態から脱水に注目し、解決法を模索してきました。次回は、実際に患者さんと接している際に大切にしていることについて、お聞きします。

小学館の運営するサライ.jp内に、おいしい健康との特集ページ『いのちを守る食と暮らし』があります。コロナ禍を経験した私たちが、人生100年時代をどう健康に楽しく生きていくのかを考えていきます。
こちらにも、谷口先生をはじめとする医師のインタビュー記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。

https://serai.jp/save-life
取材・文/梅崎なつこ