3.昔ながらの和食が、うつ病の改善に

うつ病と食事

2022.01.18 更新

やる気が出ない、何をしても疲れやすい、不安でじっとしていられない……。うつ病は、憂うつな気分が毎日続き、ものごとへの関心や興味、喜びを感じられなくなる病気です。一般的な治療としては、薬物療法(抗うつ薬などの処方)と精神療法(カウンセリングなどの心理学的アプローチ)を中心に行われてきました。しかし、近年、栄養療法(栄養学的アプローチ)の重要性が注目されるようになり、海外では診療の場で実践されつつあります。

うつ病を予防し、改善するには、どのような食事をとればよいのでしょうか。「うつ病と栄養」に詳しい、帝京大学医学部精神神経科学講座教授の功刀浩先生にお話をうかがいました。

軽快な語り口、「うつ病と栄養」に関する新たな知見、「大丈夫」というメッセージを届けてくれる診療スタイルに、人生を前向きに歩んでいく勇気がわいてきます。第3回は、うつ病患者さんの食事療法では具体的にどのようなものを選んだらいいのか、教えていただきます。

必要な栄養素がバランスよくとれるのは、昔ながらの和食です

うつ病の患者さんに対して、特別な料理を用意する必要はないと功刀先生は教えてくれます。すすめるのは、昔ながらの和食。野菜や大豆製品、魚、きのこ、発酵食品などがバランスよく含まれているからだそう。

「栄養素として大切なのは、ビタミンやミネラル、アミノ酸などです。これらは、行動や気分に指令を与える神経伝達物質の合成に必要な栄養素なので、積極的にとってください」

ビタミンは、主にビタミンD・B1・B2・B6・B12、葉酸などの不足がうつ病のリスクを高めているのだそう。これらはきのこ類や魚介類、ナッツや玄米など、さまざまな食品に含まれています。

「なかでも、うつ病の患者さんには葉酸欠乏が多いので、葉もの野菜や納豆、レバーをとるといいでしょう。また、鉄、亜鉛、マグネシウムなどのミネラルは体内で合成できないですし、必須アミノ酸やn-3系多価不飽和脂肪酸(EPA・DHA)も足りていないことが多いので、日々の食事から必ず摂取するように意識してください。ミネラルはたんぱく質と一緒に存在するので、肉や魚、卵などたんぱく源となる食材を摂ることで補充できます。また、ビタミンCやAは鉄や亜鉛の吸収を促すので、野菜をたくさん食べることもミネラル補充に役立ちます」

必要な栄養素だけを見てみると数が多くて少し大変そうだと思うかもしれません。でも、大丈夫です。うつ病の患者さんに不足しがちな栄養素が含まれているのは、肉や魚、卵、きのこ類や葉物野菜など。これらは特別な食材ではないですし、ふだんの食事で摂れるものなので身構える必要はありません。

「栄養素を満遍なく、バランス良く摂ってください。いわゆる昔ながらの和食なら自然とこれらの栄養素が含まれているので安心だと思います。ただ、和食は塩分が多いので、そこは注意が必要です」

確かに和食ではしょうゆやみそなどを多く使う料理もあるので、減塩を意識することは大切なポイントです。だしや酢などをうまく使って、塩分を控える工夫を取り入れてみましょう。また、もう一点だけ気をつけなくてはならないのは、伝統的な和食では乳製品が少ないこと。これは、牛乳やヨーグルトなどで補えるので、意識して摂るようにしましょう。

特別な食事を用意する必要はありません

実は1970年代ごろまでの日本の食事は、必要な栄養素がバランスよくとれていたといいます。そのため、比較的にシニア世代への食事指導はそれほど細かくなくてもいいことが多いといいます。問題は、若い世代です。

「たとえば食物繊維ひとつとってみても、かなり不足しています。シニアの方は食事摂取基準の21gに近い19gがとれていますが、20代は13〜14gしかとれていません(※2)。とくに穀類からとる食物繊維が少なく、戦後まもない時期と比べてもかなり減っています。

原因は、食の欧米化。欧米の食事には、ハムやソーセージ、ピザ、ポテトチップスなど、加工食品が多いですよね。自然の食材が圧倒的に少ないことが、栄養素の不足につながっているのです。食事は、野菜や果物、魚など、自然の食材を丸ごととるのが一番なんです。もちろん肉もいいですが、肉を食べるならおいしい筋肉の部分だけでなく、レバーなどの内臓も食べるようにすると、必要な栄養が摂れるのでおすすめです。主食の米も、精製米より玄米の方がいい。米を精製すると、食物繊維やポリフェノール、ビタミンやミネラルなど、肝心の栄養素はほとんど失われてしまうんです」

最近は玄米でも上手に炊くことのできる炊飯器もありますし、外食でも選べる店が増えてきています。無理のない範囲で、できることを取り入れていくように意識するだけでも違うでしょう。

さらに功刀先生は「日本人の食生活は貧しい方向に向かっている」と問題点を指摘します。

「先ほど話した加工食品や、ほかにも、砂糖や塩をふんだんに使った食べ物も多くなってきています。おいしいとはいえ、自然界にはそのままの状態で存在しないものですよね。つまり、私たちはある意味、自然ではない異常なものを食べていて、栄養素に偏りが出てしまう。こうした食生活は生活習慣病の原因にもなり得ます。これからは、うつ病も生活習慣病と捉えて、食べ方を考えていったほうがいいでしょう」

うつ病は心の病だからと、食事に気を配れなくなってしまうかもしれません。しかし、規則正しい食生活を送ること、バランスのいい食事を摂ることを心がけるだけで、少しずつ変わっていけるはずです。投薬やカウンセリングは医師と一緒に行うものですが、食事は身近なことですし、自身や周りの家族も取り組めること。できることを探して、少しずつ取り入れていきましょう。

次回は、うつ病患者さんを診療するにあたっての心構えと、うつ病患者さんへのメッセージをうかがいます。

※2 参考:厚生労働省 国民健康・栄養調査

小学館の運営するサライ.jp内に、おいしい健康との特集ページ『いのちを守る食と暮らし』があります。コロナ禍を経験した私たちが、人生100年時代をどう健康に楽しく生きていくのかを考えていきます。
こちらにも、功刀先生をはじめとする医師のインタビュー記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。

https://serai.jp/save-life
取材・文/綾城和美
編集・文/おいしい健康編集部
(トップ画像素材:PIXTA)