5.より役立つ情報発信のための研究を

食習慣と病気

2022.08.17 更新

大学の医学部を卒業してから現在に至るまで、研究医の道を走り続けてきた津金先生。大学医学部の助手を経て、国立がんセンター(現・国立がんセンター)、そして同センターがん予防・検診研究センター(現・社会と健康研究センター)と活動の場を得て、疫学・予防研究の第一人者として生活習慣とがんなどの関係について研究してきました。

今は、日本人の2人に1人以上がかかるというがん。予防や対策についての情報が数多くあり、何をどう取り入れたらいいのか、どんなことに気をつけて日々を過ごせばいいのか、悩むこともあるかもしれません。なるべくがんにならないために、私たちがすべきことは何でしょうか? 津金先生に、長年の疫学研究で得た科学的根拠に基づくがんの予防法について伺いました。

最終回では、これからの疫学研究についての先生のお考えをお聞きします。

これまでのデータを認知症研究に役立てたいんです

津金先生は、遺伝的素因も含めて、より多くの情報を集めて、日本人の生活習慣や生活環境と、病気の関わりを明らかにするための研究に長年携わってきました。2011年には、新たに「次世代多目的コホート研究」の立ち上げも。その後、2021年に国立健康・栄養研究所に異動しましたが、次の世代を担う疫学研究者らとともに、さらに一歩踏み込んだ研究を続けています。

「国立がん研究センターでコホート研究を立ち上げたのは1990年ごろですが、2010年ごろにはさすがにそのデータも古くなってきます。時代も変わってきているので、新たに10万人を集めて、その時代に即した生活習慣と病気との関係を調べる必要があるのです。もちろん、90年から調査を始めた人たちもまだ追跡中。当時、40~69歳だった人が、今は70~99歳になっているので、その人たちから集めたデータは、今後、認知症や長寿の研究に活用できると考えています」

今はコロナ禍によって生活習慣がどう変化しているのかなども調べているのだそう。病気予防のためには、時代に応じて、新しい調査項目を増やしていく必要があるのです。

「ただ、これはぼくが国立がん研究センターにいたときの主な仕事です。そこを去るときにしっかりバトンを渡せたと思っていますので、今後の研究に期待したいですね」

日本人の長寿の理由を検証したい

国立健康・栄養研究所ではどのような研究に取り組んでいらっしゃるのでしょうか?

「今は、健康寿命の延伸に資する運動や食事の研究や、健康効果が確立している食事の社会実装に関する研究などに力をいれています。前者では、がんに限らず、ほかの病気も視野に入れ、健康で長生きする食事について広く研究しています」

どんな食事をどれくらい摂れば、病気の予防や健康寿命の延伸につながるのか、因果関係をよりはっきりさせ、指針などとして提言したいと研究を続けています。

「正しい情報を伝えていきたい。将来のことを考えると、人間が摂るべき食品もなるべく地球環境にやさしいことが必要になってきます。持続可能という観点からは、動物性よりも植物性のほうがいいでしょう。それと、実は、日本人がなぜ長寿なのか、日本食の何がいいのか、まだはっきりしたデータはありません。日本人の長寿の理由を、食べ物の観点からぜひ検証したいと思っています」

人間にも地球にも健康的な食事の提案を

また、厚生労働省が出している「食品摂取基準」や厚生労働省と農林水産省が出している「食事バランスガイド」とは別に、日本人向けの食事の提案をしたいという思いもあるのだそう

「たとえば『食事バランスガイド』には、“主菜は肉や魚、卵、大豆料理から三皿程度”などと書いてあります。しかし、具体的な情報がないので、実際にどんな料理を作ったらいいのか迷う方が多いんです。スーパーに行ってどんな食品を選んだらいいのか、肉がいいのか魚がいいのか、きちんと選べるような指針を作りたい。また“主食はごはん、パン、麺”としか明示していません。私は、健康のためには、白米より食物繊維や栄養素が多い玄米をすすめるとしてもいいのではないかと思っています。国際的には、全粒穀類が推奨されていますが、日本人には、あまり馴染みがないかもしれませんね。これから食品ベースで、人間と地球にとって健康的な食事は何かを、科学的根拠に基づいて提案していきたいと思っています」

生活習慣は無理なく、少しずつ改善しましょう

「これまでお話してきたように、がんのほとんどは生活習慣によって起こるものです。“うちはがん家系だ”と言う方がいますが、がんになるかどうかが遺伝子で決まっているわけではありません。長寿になるほど、がんになる確率が高くなるわけですから、家族や親せきに半分くらいがんの人がいてもおかしくないんです」

遺伝性のがんは大腸や前立腺、乳がんなどで、全体の5%程度とごく少ない割合です。津金先生は「家族性のがんは比較的若い世代で発生するので、家族にこれらのがんになった人が複数いたら、遺伝相談外来を受けるなど注意が必要」と言います。

「がん予防に近道はありませんし、確実なものもありません。でも、毎日繰り返す生活習慣を見直し、改善することが、がん予防につながることは間違いありません。生活習慣を急に変えるのは難しいものです。無理がない範囲でできることから少しずつ改善していくのがいいと思います」

何を選んでどう食べるか、生活の中に運動をどう取り入れるか。できることを見つけて、少しずつ取り組んでいきましょう。

小学館の運営するサライ.jp内に、おいしい健康との特集ページ『いのちを守る食と暮らし』があります。コロナ禍を経験した私たちが、人生100年時代をどう健康に楽しく生きていくのかを考えていきます。
こちらにも、津金先生をはじめとする医師のインタビュー記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。

https://serai.jp/save-life

撮影/フカヤマノリユキ
取材・文/高橋裕子
編集・文/おいしい健康編集部

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