3.今、50代独居男性の患者が増えている理由

腎臓病の兆候

2023.06.06 更新

初期段階では、痛みやむくみなどのサインがほとんどなく、症状が出たころには進行している、ということが少なくないのが腎臓病の特徴。「ものを言わない臓器」とよばれるほどなのです。

「腎臓疾患は“気づきにくい“というのが一番のネックなんです。健康診断で数値に何かしら問題があったら、まずは病院に行ってみる。早期発見により、対処できることが山ほどあることを知ってもらいたいですね」

そう話すのは腎臓内科医の菅野義彦先生。患者さんと向き合う現場だけでなく、医療従事者の働く環境を考えた組織作りにも携わる、医師の“当たり前“を覆す歩みを伺いました。

3回目は、先生が診察をしているなかで気がついた最近の傾向についてのお話です。

バブル期に青春を過ごしてきた男性たち。その世代のひとり暮らしに罹患者が多いんです

腎臓病の原因となる、糖尿病や高血圧などの薬がよくなったことで、腎臓病になる患者さんは減りつつあると言います。

「昔は血液透析の患者さんは30代、40代の方が普通にいらっしゃいましたが、今は平均すると70歳。今朝の病棟カンファレンスでも、透析に入られたのは79歳の患者さんでした」

ただし、ここ数年で増えている世代がある、と菅野先生は続けます。

「それは50代の独居男性の方々です。都市部に限ってなんですが、50代から60代前半の世代が増えているんですよね」

なぜ、患者さんが減りつつあるなか、その世代の男性患者だけが増えてきているのでしょうか? 

「想像するに、彼らはぎりぎりバブル期の世代。おいしものをたっぷり食べていた若かりしころの名残で飽食が抜けきれないのだと思います。なおかつ、離婚などでひとり暮らしになり、自分の体に気を使ってくれる人がいない。精神的にも『もうどうでもいい』と自暴自棄になり、症状が出て病院に来るころには悪化しているという現象が起きていると推測します」

自分で自分の体を思いやる習慣がなければ、早期発見にはつながりません。これは、どんな環境の人にとっても気にしなければならないことでしょう。

社会の問題が医療の現場にも鏡のように映し出されています

または、80代の高齢の両親をひとりで面倒を見ている男性にも、腎臓病を罹患する方が比較的多いそう。確かに、一人で介護をしていると、自分のからだの変化まで気遣う余裕がないかもしれません。社会的な問題が、医療にまで影響していることがよくわかります。

「高齢化社会の問題でいうと、ひとり暮らしの高齢者でセーフティネットから外れている人が増えている印象です。これは腎臓病に限らずなんですが、病状が悪化するまで誰にも気づいてもらえないケースが頻発しています」

「ものを言わない臓器」と呼ばれる腎臓は、初期段階では気がつきにくいもの。ひとり暮らしをしていたり、たった一人で介護をしていたりという状況では、なおさら難しいのです。

「救急車で運ばれてきて入院し、治療した後も身寄りがないという場合もあります。私たちとしても放り出すわけにはいかないので病院にいてもらうのですが、限られたベッドを治療の必要のない方が使い続けるのは問題でもあります。自治体と連動して解決できればいいのですが、うまく機能していないのが現状ですね」

医療の現場では、地域全体でのサポートが急がれる問題に直面しているのです。

次回は、菅野先生が医師を目指したきっかけや、今までの道のりについてお聞きします。

取材・文/梅崎なつこ
編集/おいしい健康編集部

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