人間は、歳をとるにつれ、身体機能も認知機能も低下していくもの。高齢化が進むなか、人生の最後の10年はどうしても医療や介護が必要になるというのが現状です。というのも、健康上の問題がなく、普通に日常生活を送ることのできる期間のことを「健康寿命」と言いますが、今の日本ではこの健康寿命と平均寿命の差が広がってきているのです。
しかし、その状況を受け止め「加齢や病気に伴い心身の機能が低下しても、最後の瞬間まで安心・納得して生き切れるコミュニティをつくる」と考え、24時間対応の在宅総合診療を手がけているのが佐々木淳先生です。在宅医療の現状を通し、今どのようなことに気をつけたらいいのか、これからの在宅医療に必要なことについてお話をお聞きします。
最終回は、今の新型コロナウイルスの感染の不安がある中での過ごし方についてのお話です。
三密を避けて、身体を動かすようにしましょう
在宅医療は、新型コロナウイルスの不安があるなかでも変わらず続いています。診察に携わるなかで、佐々木先生はどのようなことを感じているのでしょうか? まず、高齢者にとって必要なのは「外出すること」だと佐々木先生は言います。
「在宅医療であっても、そうでなくても、感染のリスクを避ければ、外に出ても大丈夫です。いつも一緒に出かける友人がいるのであれば、お互いにきちんとケアをしたうえで、一緒にカフェに行ってもいいと思います。公園でおにぎりを食べるでもいいですし、三密を避ければ問題ないので、どんどん外に出てほしいと思っています」
身体を動かすこと。誰かと会って話すこと。外に出るおかげで得られるものはたくさんあります。感染のリスクがあるからと家にこもっていると、知らず知らずのうちに体力が落ち、食欲が減退してしまうこともあり得ます。そして、その状況に気がつかずに、いつの間にか自分で身体を動かすことが困難になるというリスクもあります。
「たとえば交通事故で亡くなっている高齢者は、年間2000人くらいいます。お風呂で溺死する高齢者は、年間3000人ほどです。交通事故に遭うリスクがあるから外に出ない、お風呂で亡くなるリスクがあるから入らない、ということにはなりませんよね。新型コロナウイルスの場合と比べていいものではありませんが、リスクがあるからと外出しないよりも、対策をして外に出るほうがいいと僕は思います」
人とのつながりを大切にすれば、これからの人生が豊かになると考えている佐々木先生だからこその意見です。もちろん、人と接する機会は、外出以外の方法もあります。
「遠く離れた家族や友人とテレビ電話するのもいいですよ。顔を見て話すのはとてもいい影響があります。先に話したネットゲームもいいですしね」
デジタルデバイスを使いこなすというハードルはあるかもしれませんが、それに挑戦することも、新たな刺激になると捉えてみてはどうでしょうか?
『うつらない』ではなく『うつさない』意識を
一方で、感染させないという意識を持つことも大切だと先生は続けます。外出時にはマスクをし、帰宅したら手洗いやうがい、消毒を徹底すれば、感染を防ぐことにつながります。
「『うつらない』というよりも『うつさないように』することが必要です。みんなが考え方を変えて『うつさないように』意識して行動することが大切だと僕は思っています。この状況が何年続くかわからないなかで、社会的な活動もコミュニティの動きも停滞しがちです。なんとか人との交流が活性化できるように、考えていかないといけないと思っています」
今の状況でもできることはたくさんあるのです。「うつさないように」意識する。そのうえで人とのつながりを大切にし、交流できる範囲で活動していく。デジタルデバイスを駆使して、コミュニケーションの場を作る。できることを考え、とにかく実行していくことが何よりも大切です。高齢者自身も家族も、友人も、さらにはコミュニティ全体で考えていきましょう。
小学館の運営するサライ.jp内に、おいしい健康との特集ページ『いのちを守る食と暮らし』があります。コロナ禍を経験した私たちが、人生100年時代をどう健康に楽しく生きていくのかを考えていきます。
こちらにも、他の医師のインタビュー記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。
https://serai.jp/save-life
写真/近藤沙菜