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2.フレイルを自覚するために役立つ質問票

フレイル健診とは

2020.08.28 更新

「フレイル」という言葉を目にしたり、耳にしたことはありますか? 健康な状態と、介護が必要な状態との中間のことを指し、2014年に日本老年医学会が「年齢に伴って筋力や心身の活力が低下した状態」と提唱しました。高齢化社会が進むにつれ、これからさらに重要視されていく病態です。

歳をとって身体の機能が落ちていくのは自然の現象ではあるものの、そのまま放置していると介護が必要な状態になってしまいます。健康寿命を伸ばすために、どう対応していけばいいのでしょうか。患者さんの生活や身体機能を高めるため、リハビリテーションと栄養の側面から診療を続けている東京女子医科大学病院リハビリテーション科教授・診療部長の若林秀隆先生にお話を聞きました。

前回は「フレイル」という状態を意識し、予防できる状態であれば対策を取ることが必要だというお話でした。今回は、対策を取るために自分の状態を知る方法についてお聞きします。

質問票は、自分や家族がチェックしても役立ちます

まずは、自分の身体や心がどのような状態なのか、フレイルのリスクがあるかどうかを知ることが大切です。健康診断での血圧や血糖値などでわかることもありますが、心の状態などは数値だけでは測れません。2020年4月から、「フレイル健診」がスタートしました。75歳以上の高齢者には義務化されている健診です。

「『フレイル健診』というのは俗語で、正しい名称は『後期高齢者の質問票』と言います。健診をする目的は、自分の状態を認識すること。フレイルの状態は、なかなか自覚することが難しいものです。たとえば体重や筋力が落ちてきていること、十分な栄養がとれていないこと、歩く速度が遅くなっていることなどは、少しずつ進んでいくものだからです」

事故や病気を境に体力や気力が落ちた場合は、自覚しやすいものですが、日々の暮らしの中で少しずつ進行していることはきっかけがなければ意識することができません。

「質問票があることで、自分の状態を知ることにもなりますし、予備軍だという認識も持てる。今の生活がフレイルになりやすいかもしれないと気づくきっかけになるということで、質問票はとても役に立つものだと思っています」

ここで、質問票を見てみましょう。

後期高齢者質問票

後期高齢者の質問票の解説と留意事項(厚生労働省)

「身体面、精神心理面、社会面など、主なフレイルに関してはこれらの質問に答えることで確認できます。わかりやすい質問ばかりなので、家族の状態をチェックするのにも役立ちます」

フレイルに気をつけるためには、自覚が必要です。

後期高齢者のための質問票ではありますが、65歳以下の人でも、予防を含めて確認してみてもいいでしょう。生活習慣を見直すきっかけにもなります。

「実際、私は5番、6番、11番に該当します(苦笑)。ただ、自覚できていない場合は、セルフチェックでもすべて『問題ない』という結果になってしまうので、自分だけで判断するのは限度があるかもしれません。家族や友人でチェックし合うのも一つの手でしょう。それだけ会話も増えますし、交流する機会にもなります」

また、65歳以下の場合では、フレイルよりもメタボリックシンドロームを気にする人も多いかもしれません。食べすぎを注意していたはずが、栄養が足りていないという状況になる可能性もあります。

「年齢で明確に区切ることはできませんが、65歳未満の方に関しては、フレイルよりもメタボに重きをおいたほうがいい人が多いかもしれません。65〜75歳は個人差があるので、どちらの可能性もあります。75歳以上では、BMI30以上でよっぽど肥満を注意されている方ではない限り、フレイルに重きをおいた方がいいでしょう。とはいえ、メタボでもフレイルでも、大切なことは共通しています。栄養管理に心を配る、きちんと運動するということは心がけてください」

自分の身体がどういう状態か、年齢とともにどんな変化が起きているかを意識する意味でも、メタボリックシンドロームであれ、フレイルであれ、質問票をチェックしておくと安心です。

まずは原因を考えることから、始めます

実際に質問票をチェックして、該当する項目があった場合は、自分自身で勝手に判断してはいけません。なぜ、そのような状態になっているのか、原因を見極める必要があるからです。

「いきなり医療的な介入をすることはありません。たとえば、むせることが多い場合だと、嚥下に障害があるのなら、リハビリ科や耳鼻科などの医療機関をすすめます。また、テレビを見ながら食事をしていてむせることが多いのなら、食事に集中する環境を提案しますし、飲み込みにくいようであれば、食事の形態を見直す必要があります。原因によって対策は違うので、しっかり深掘りして、アセスメントすることを大事にしています。私の場合、のどの力が弱くなったことが原因ですので、のどの筋力トレーニングをしています」

セルフチェックは有効ではあるものの、原因に関しては自分一人で決めつけないことが大事です。医療機関や保健師と相談するようにしましょう。

次回は、実際にどのように対策をしたらいいのかについてのお話です。主に食生活について、お聞きしました。

小学館の運営するサライ.jp内に、おいしい健康との特集ページ『いのちを守る食と暮らし』がスタートしました。コロナ禍を経験した私たちが、人生100年時代をどう健康に楽しく生きていくのかを考えていきます。
こちらにも、若林先生のインタビュー記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。

https://serai.jp/save-life


取材・文/おいしい健康編集部
(トップ画像素材:PIXTA)