糖尿病(1型・2型)市原由美江医師糖尿病(1型・2型)市原由美江医師

2. 子どもだからこそ感じる、1型糖尿病の辛さ

1型糖尿病の治療と対策

2020.04.06 更新

小学校6年生のときに1型糖尿病にかかり、それがきっかけで医師をめざしたという市原由美江先生。現在は糖尿病専門の医師として活躍しています。1型糖尿病がどういう病気なのか、また、ご自身の病気がわかったきっかけやなぜ医師をめざすことになったのか、お話を伺うページです。

1.1型糖尿病の原因は、生活習慣ではない」では、1型と2型の違いやその原因についてのお話を聞きました。今回は自身が1型糖尿病とどう向き合ってきたかをお聞きします。

1型糖尿病だとわかったのは、健康診断でした

市原先生が1型糖尿病を発症したのは11歳のころ。学校で受けた、春の健康診断の尿検査で判明しました。

「健康診断の2、3ヶ月前くらいから、急に5kgくらい痩せて、のどが渇くことも多かったようです。親も変だなとは思っていたみたいでした」

市原先生の場合は、わかった時点での血糖値が高く、即入院することに。インスリン注射による治療が始まりました。

「細かく血糖値をはかりながら、インスリン注射を打ってもらっていました。私は病院が好きという変な子だったので、入院には抵抗がなくて。注射や点滴も嫌いじゃなく、むしろ、かっこいいと思うくらいでした」

友達と同じものが食べられず、悲しい気持ちに

さらには、食事制限も始まります。体に入る糖の量を調整するために、食事に含まれる糖を気にしながらの生活になっていったと言います。

辛かったのは、他の子供たちと違う病院食だったこと。私だけおやつが出なかったんです。それに、他の患者さんたちのところにはお見舞いにケーキを持って来る人がいるけれど、私のところへは、もちろんそういうお見舞いはありませんでした」

治療を終え、晴れて退院というときには、食事に気をつけなければいけないということがすっかり身についていました。その証に、お母さんから退院時に何が食べたいか聞かれて「焼きなす」と答えたと言います。

「自分なりに自分の体と母親を気遣ってのことだったと思います。退院してからは、友達の家へ遊びに行っても、自分だけおやつを食べないことは、何度もありました。みんなと同じものが食べられないことが嫌で、中学生になってからはお友達と出かけることも減っていってしまったんです」

食事療法は、母の工夫があってこそでした

退院後は、自宅で食事療法を続けていたといいます。インスリン注射を自分で打ち、血糖値をコントロールしながら、食事にも気をつけるという暮らし。当時はどのような食事をしていたのでしょうか?

「まず、お医者さんが注射するインスリンの量を決め、それに合わせた食事をしましょう、という治療方針でした。摂っていい糖分の量は、自分では調整できなかったんです」

現代の治療は、食べたものに含まれる糖の量に合わせて、インスリン量を加減して打つという方法がほとんどです。しかし、当時の治療は逆でした。インスリンの量に合わせて食事をコントロールしなければならなかったのです。

「母がとても工夫してくれていました。料理の甘味には血糖値が上がらない種類の甘味料を使ってくれたり、使う糖の量を減らしたお菓子を作ってくれたり。逆に、いもやかぼちゃなど糖質の多い食材は使わなくなりました。家族全体で気を使ってくれていたのだと思います」

また、中学高校時代には自ら料理をするようにもなったそう。最初は手伝いから始まり、次第に料理の本を見て一人で作れるように。

将来的に自分で食事が作れた方が、食事制限もぐんと楽になるからということで、母親がなんとなく料理するように仕向けてくれていったんだと思います。ただ、私が料理の本を見ていると『何か食べたいものがあるのかしら』と母は切なくなっていたらしいです(笑)」

運動量が多い日は、甘い紅茶を持参して

血糖値が上がらないよう、常に食事に気をつけている生活では、逆に低血糖になってしまうことがあります。その原因は運動。体を動かすことで血液中の糖分がエネルギー源として使われて急激に減ってしまうからです。学校では体育の授業もあれば、運動会の練習もあるもの。

「1型糖尿病の特徴なのですが、たくさん動くと、どうしても血糖値が下がってしまいがちです。そうならないように自分で気をつけなければいけませんでした。運動量が多い日は、低血糖にならないようにと母が水筒に甘い紅茶を入れてくれていたんです。水筒ならみんなも持っているので目立つことはありません。『周りの目につきにくいように』という母の配慮だったと思います」

今も同じような状況は続いていますが、病気との付き合いが長いこともあり、「あ、下がってきているな」と自覚することができるように。そのタイミングで糖分を補給すれば大丈夫なのだそう。

3. 『パジャマを脱ぎなさい』という言葉が励みにへ続きます。

取材・文/長谷川華・おいしい健康編集部
写真/近藤沙菜