「フレイル」という言葉を目にしたり、耳にしたことはありますか? 健康な状態と、介護が必要な状態との中間のことを指し、2014年に日本老年医学会が「年齢に伴って筋力や心身の活力が低下した状態」と提唱しました。高齢化社会が進むにつれ、これからさらに重要視されていく病態です。
歳をとって身体の機能が落ちていくのは自然の現象ではあるものの、そのまま放置していると介護が必要な状態になってしまいます。健康寿命を伸ばすために、どう対応していけばいいのでしょうか。患者さんの生活や身体機能を高めるため、リハビリテーションと栄養の側面から診療を続けている東京女子医科大学病院リハビリテーション科教授・診療部長の若林秀隆先生にお話を聞きました。
前回はフレイルの対策としてかんたんに取り入れられる運動について聞きました。今回は、社会参加の大切さについてのお話です。
外に出て、他人と交流する時間がフレイル予防に役立ちます
食事や運動など、フレイル予防の対策についてのお話を聞いてきましたが、若林先生自身が患者さんと接するなかで実感しているのは社会面の大切さだと言います。
「外出することが減ると、身体を動かす機会も頭を使う時間も減っていきます。社会的なフレイルがきっかけで、身体面、精神心理面のフレイルが進むという例が多いんです。外に出て周囲と交流するだけでも、身体や心を使うことにつながるので、フレイル予防として大切なのは社会参加だと実感しています」
なかでも、定年退職後の男性は、それまで仕事を通して社会参加していたものが急になくなってしまうので、フレイルのリスクが高くなるのだそう。できる限り、働いている間に会社以外の交流する場を持つようにしておくと安心です。
「私も仕事以外のコミュニティを持とうと考えて、昨年から日本酒部という月に一回日本酒を飲む会に参加していますよ。少人数ではあるものの、テニス仲間もいます。忙しいとなかなか難しいかもしれませんが、ボランティアでも趣味でもなんでもいいのです。何かひとつでも仕事以外のコミュニティを持っておくことを強くおすすめします」
一人暮らしはフレイルのリスクとは思いません
他人との交流という点を考えると、一人暮らしであることはフレイルになりやすくなると思われがちかもしれません。実際に質問票にも一人暮らしかどうかを確認する項目があります。
「確かに、リスクがある人もいるかもしれませんが、全員に当てはまるわけではありません。むしろ全く問題ない人も多いです。一人で家事をこなしている方々は、皆さん身体も頭もよく使っていますし、逆に積極的に社会参加をしようとしていることも多いです」
環境はそれほど関係なく、自身の身体や心の状態をきちんと知って、対応しているかが大切なのです。まずは、できることから取り組んでみましょう。食事をしっかりとり、少しでも身体を動かし、誰かと会話する時間を楽しむ。フレイルの予防は、日々の生活を楽しくしてくれることにもつながるのです。
次回は、新型コロナウイルスの状況下でのフレイル対策についてお話を聞きます。
小学館の運営するサライ.jp内に、おいしい健康との特集ページ『いのちを守る食と暮らし』がスタートしました。コロナ禍を経験した私たちが、人生100年時代をどう健康に楽しく生きていくのかを考えていきます。
こちらにも、若林先生のインタビュー記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。
https://serai.jp/save-life
(トップ画像素材:PIXTA)