若林先生若林先生

4.自宅でもできる、かんたんな運動を

フレイル対策

2020.08.28 更新

「フレイル」という言葉を目にしたり、耳にしたことはありますか? 健康な状態と、介護が必要な状態との中間のことを指し、2014年に日本老年医学会が「年齢に伴って筋力や心身の活力が低下した状態」と提唱しました。高齢化社会が進むにつれ、これからさらに重要視されていく病態です。

歳をとって身体の機能が落ちていくのは自然の現象ではあるものの、そのまま放置していると介護が必要な状態になってしまいます。健康寿命を伸ばすために、どう対応していけばいいのでしょうか。患者さんの生活や身体機能を高めるため、リハビリテーションと栄養の側面から診療を続けている東京女子医科大学病院リハビリテーション科教授・診療部長の若林秀隆先生にお話を聞きました。

前回はフレイルの対策として食生活について聞きました。今回は、身体機能をアップするための運動についてのお話です。

かんたんな片足立ちでも、トレーニングになります

食欲を増進させるうえでも、フレイル予防という観点からも、身体を動かすことは大切です。運動機能の向上のために自宅でも気軽に取り入れられるトレーニングを教えていただきます。

「できる限り外に出て歩くなど、身体を動かすようにしてください。外に出るのが億劫という場合でも、家でできることがあるので取り入れてみましょう。私がいつも患者さんにおすすめしているのは、椅子からのスクワットです」

椅子に座った状態から、ゆっくり3〜4秒ほどかけて立ち上がり、また3〜4秒ほどかけてゆっくり座るという動き。10回ほど繰り返すだけでも筋肉トレーニングになります。特に高齢者にとっては、テーブルに手をついてやることができるので転倒にも気をつけることができます。

「それが難しい場合は、テーブルや壁に手をついて、片足立ちをするのもおすすめです。左右それぞれ30秒ずつやるだけでも、筋トレになるうえにバランス訓練にもなります。

また、膝が痛くて座ったり立ったりを繰り返すのが困難という場合は、椅子に座った状態からただ足を真っ直ぐ伸ばすだけでもいいですし、膝を曲げたまま腿上げするだけでもいいです。関節に負担のかからない範囲で動くようにしてください」

取り組む順番に気をつけると、運動の効果がアップします

筋肉トレーニングの他に、ウォーキングや水泳などの「有酸素運動」と、転倒予防や歩行速度を高めるための「バランス訓練」を組み合わせると、より筋力アップの効果が高まります。

「それぞれの運動の効果を高めたい場合は、順番を意識して有酸素運動や筋トレ、バランス訓練などを組み合わせるのがおすすめです。たとえば、有酸素運動と筋トレを組み合わせる場合、ある報告によると、ウォーキングをしてから筋トレをした方が効果が出やすいのです。また、筋トレの前にストレッチを行う方もいますが、むしろ筋力がつきにくいという研究結果も発表されています」

ウォーキングを先にしたほうがいいという論文

事前のストレッチは筋トレの効果が下がるというブログ

運動をすることは筋肉の柔軟性や筋力のアップにつながりますし、関節の動きの改善や、血液の流れを良くする効果もあります。内臓の働きも活性化するので、自然と食欲も増進しますし、身体を動かすために外に出ることは気分転換にもなって精神的な安定にもつながります。

「身体を動かす習慣を作ることが大切です。一人で黙々と続けられる人は大丈夫ですが、家族や友人と一緒に歩いたり、毎日ラジオ体操をしたりと工夫して、続けられるようにしましょう」

喉の筋トレは嚥下障害の予防に役立ちます

身体全体を動かす運動の他に、オーラルフレイルの対策としての体操も教えていただきました。

「私も飲み物でむせることがあるので、日常的に行っているのが喉の筋トレです。『嚥下おでこ体操』というもので、手とおでこで力くらべをするんです。へそをのぞき込むようにあごを引き、手のひらをおでこに当てて持ち上げるようにして押し合います。10秒ほどやってみてください。また、他にも舌を上あごにつけるだけでも、飲み込むときに使う筋肉のトレーニングになります」

私たちは、舌を上あごにつけて飲み込まなければ、固形物でも汁物でもゴクンと飲み込むことが難しいです。舌の筋肉が衰えると、上あごにつける力が弱くなり、うまく飲み込めずにむせてしまうというわけです。

喉が鍛えられれば、食べ物が気管に入ることがなくなってむせることも減り、より食事を楽しめるようになります。食べることが楽しみになれば、身体にとっても心にとっても嬉しいことでしょう。それでも、噛みにくい、飲み込みにくいという症状が続くことはあるでしょう。

「かかりつけの歯科がある場合は、ぜひ相談してください。嚥下指導ができる歯科医師もいます。難しい場合は耳鼻科やリハビリ科を紹介してもらって相談しましょう」

加齢による場合、いきなり飲み込めなくなるというものでもなく、嚥下機能の低下は少しずつ進んでいきます。定期的に歯科での診察を受けておけば、早めの対応ができて安心です。

次回は、身体面にも精神心理面にも影響がある、社会参加の大切さについてのお話です。

小学館の運営するサライ.jp内に、おいしい健康との特集ページ『いのちを守る食と暮らし』がスタートしました。コロナ禍を経験した私たちが、人生100年時代をどう健康に楽しく生きていくのかを考えていきます。
こちらにも、若林先生のインタビュー記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。

https://serai.jp/save-life
取材・文/おいしい健康編集部
(トップ画像素材:PIXTA)