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2021.4.9 更新

胃酸の逆流はさまざまな原因によって起こります

京都府立医科大学附属病院 内視鏡・超音波診療部 部長

内藤裕二先生

逆流性食道炎の症状が出ないようにするためには、どうして胃酸の逆流が起こるのかを知っておくと助けになります。胃酸の逆流の原因についてお話しします。

生活習慣や姿勢などによって起こることがあります

日常的な習慣や体型、胃の形によって、逆流性食道炎を起こしやすくなることがあります。
胃酸の逆流が起こりやすくなる要因は以下の通りです。

◎喫煙…たばこは胃酸の分泌量を増やし、食道と胃の境目の締まりを緩める作用があります。

◎肥満…お腹周りの脂肪が多いと、胃が押されて逆流しやすくなります。BMI26以上だとリスクが高くなります。
*BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)

◎やせすぎ…やせすぎている人(BMI18以下)は、とくに女性で胃食道逆流症による症状が起こりやすいのですが、その理由はあきらかではありません。

◎食事…食べ過ぎや脂肪分の多い食事は、下部食道括約筋を緩める原因となります。

◎姿勢…前かがみの姿勢が多いと、胃が圧迫されて胃酸が逆流しやすくなります。

◎薬…服用している薬の影響で胃酸の逆流が起こることがあります。

◎胃の形…食道裂孔ヘルニア(食道裂孔が緩んで胃が横隔膜の上にはみ出した状態)など、胃の形の影響で逆流が起こりやすくなることがあります。

胃酸の量が多いと起こります

胃が元気だと胃酸がたくさん分泌されるため、逆流する胃酸の量も多くなります。従来、日本人はピロリ菌に感染していることが多く、ピロリ菌は胃酸の分泌を少なくする作用があるため、胃酸の量が少ない人が多い傾向にありました。しかし、ピロリ菌感染者の減少と除菌治療の普及により、胃酸が活発に分泌される人が増えています。

食道と胃の境目の締まりがよくないと起こります

食道と胃の間にある下部食道括約筋や、食道が通る横隔膜の穴(食道裂孔)が加齢などの原因で緩み、締りが悪くなると、食道と胃の境目が閉じにくくなり、胃酸が逆流しやすくなります。

食道と胃の境目の締まりがよくないと逆流性食道炎に

ほかの病気が原因になっていることもあります

ほかの病気が原因で逆流性食道炎を起こすことがあります。この場合は、原因となっている病気を突き止め、改善しないと、逆流性食道炎の治療だけでは症状が改善しません。そのため、逆流性食道炎と診断されたときは、原因として考えられる病気の検査をすることがあります。
逆流性食道炎を起こしやすくなる病気は以下の通りです。

◎骨粗しょう症
骨密度の低下によって骨がもろくなり、骨折しやすくなる病気です。背骨が変形して背中が丸くなってしまうことで胃が圧迫され、胃酸の逆流を起こしやすくなることがあります。

◎糖尿病
血液中のブドウ糖の量が多すぎる状態が続く病気です。尿量が増えて体内の水分が減少することで、唾液の量が減少します。さらに、糖尿病の合併症である神経障害によって食道の知覚や運動機能が低下することで、逆流性食道炎が起こりやすくなります。

◎膠原病(こうげんびょう)
膠原病とは皮膚・血管・関節などに激しい反応が起こる病気の総称です。このうちシェーングレン症候群は唾液の分泌量が減るために、全身性強皮症は食道の蠕動運動が低下するために、逆流性食道炎が起こりやすくなります。

ほかの病気の治療薬で症状が悪化することが

他の病気の治療薬の影響で逆流性食道炎の症状が悪化することがあります。服用している薬がある場合は、「関係ない」と自己判断せず、使用している薬はすべて医師に伝えるようにしてください。「お薬手帳」を見せるのがわかりやすくていいでしょう。
逆流性食道炎の症状に影響を与える可能性がある薬は次の通りです。

◎カルシウム拮抗薬…高血圧の治療に使われることが多く、狭心症や不整脈などにも使われることがある血管拡張薬

◎β刺激薬…気管支ぜんそく、慢性気管支炎などに使われる気管支拡張薬

◎テオフィリン…気管支ぜんそく、慢性気管支炎などに使われる気管支拡張薬

◎抗コリン薬…けいれん、胃腸炎、パーキンソン病の治療などに使われる薬

◎プロスタグランジン製剤…慢性動脈閉塞症、脊柱管狭窄症などに使われる血管拡張薬

◎α遮断薬…前立腺肥大症による排尿障害や高血圧の治療に使われる薬など

◎ジアゼパム…抗不安薬。筋弛緩作用があることから、慢性腰痛の治療に使われることもあります

◎非ステロイド抗炎症薬…痛み止めとして広く使われていますが、副作用で胃潰瘍などが起こることがあります

◎アスピリン(低用量)…血液をかたまりにくくする抗血小板薬として、血栓予防のために少量使われます

<参考> 日本消化器病学会編集「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン 2015」(南江堂)

<参考> 三輪洋人監修「シニアの逆流性食道炎:こみ上げる胃酸にもう悩まない! (別冊NHKきょうの健康)」(NHK出版)

文/東 裕美

京都府立医科大学附属病院
内視鏡・超音波診療部 部長
内藤裕二先生

京都府立医科大学 消化器内科学教室 准教授。京都府立医科大学卒業。2015年より現職。専門は、消化器病学、消化器内視鏡学、消化管学、酸化ストレスと消化管炎症、生活習慣病、腸内微生物叢。国際フリーラジカル学会(SFRR)アジア President、米国消化器病学会(AGA)会員。主な著書に『便秘薬との向き合い方』(金芳堂)、『消化管(おなか)は泣いています』『人生を変える賢い腸のつくり方』(ともにダイヤモンド社)がある。

京都府立医科大学附属病院 内視鏡・超音波診療部 部長 内藤裕二先生

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