4.正しい情報を的確に伝えるために

食習慣と病気

2022.08.09 更新

大学の医学部を卒業してから現在に至るまで、研究医の道を走り続けてきた津金先生。大学医学部の助手を経て、国立がんセンター(現・国立がんセンター)、そして同センターがん予防・検診研究センター(現・社会と健康研究センター)と活動の場を得て、疫学・予防研究の第一人者として生活習慣とがんなどの関係について研究してきました。

今は、日本人の2人に1人以上がかかるというがん。予防や対策についての情報が数多くあり、何をどう取り入れたらいいのか、どんなことに気をつけて日々を過ごせばいいのか、悩むこともあるかもしれません。なるべくがんにならないために、私たちがすべきことは何でしょうか? 津金先生に、長年の疫学研究で得た科学的根拠に基づくがんの予防法について伺いました。

健康と食べ物への関心が高まるにつれ、マスメディアでも「〇〇ががん予防に効く!」といった情報をよく目にします。これらの情報は本当に正しいのでしょうか? たくさんの情報があるからこそ、きちんと見極めなければなりません。今回は、津金先生ご自身が情報を伝えるときに心がけでいらっしゃること、また、情報を受け取る私たち自身が注意すべきことについてのお話です。

情報は、発信元を必ず確認してください

「研究者の使命は、皆さんに正しい情報をわかりやすく伝えること」と、津金先生はきっぱりと言い切ります。

「もっと言えば、一般の方に伝えるのは正しい情報だけ。まだまだ吟味が必要な曖昧な情報は科学論文として残すことは重要ですが、安易に伝えてはいけないと考えています。たとえば、疫学研究などで、コーヒーをよく飲んでいる人は、肝がんになりにくく、とくに女性では子宮体がんや大腸がんを発生しにくいという結果が出て、メディアで紹介されたことがあります。でもこれは一つの研究結果にすぎず、ほかの研究では大腸がんのリスクは下げないという報告もあります。さらにコーヒーのほかの病気への影響についても調べる必要があります。ですから、今の段階では、がん予防のためにコーヒーを飲みましょう、とは推奨していません」

私たちは、どうしても目新しい情報に飛びついてしまいがちです。その一方では「情報が多すぎて、いったい何を信じていいのかわからない」という声も少なくありません。正しい情報を得るためには、どうしたらいいのでしょうか?

「まず情報について、だれが提供しているのかを確認してください。企業や販売者が出しているデータは、実験数や被検者数が少なかったり、売り手に都合のよいデータであることも少なくありません。利害関係がない公の機関による科学的根拠に基づく情報かどうかが大切です」

目にした情報をすぐに鵜呑みにするのではなく、まず発信元を確認する。信頼するに足る情報かどうかを確かめるクセをつけるといいのです。

情報が最新かどうかも大切です

2011年、国立がん研究センターがん予防・検診研究センターがまとめた「がんを防ぐための新12か条」が公開されました。その内容は、30年前に公開された「旧12か条」とは少し違ったものでした。

「『新12か条』では『旧12か条』には明記されていた『焦げた部分はさける』『かびの生えたものに注意』『日光に当たりすぎない』の3項目が削除されています。肉や魚の焦げた部分については、動物実験では発がん性があることがわかっていますが、人間にあてはまるかどうかは今のところ不明です。また、熱帯・亜熱帯のジメジメした環境でピーナッツなどに生えるかびの一種であるアフラトキシンには発がん性がありますが、日本はこのかびが生える環境にはなく、輸入食品も規制されています。そして日光も、日本人の肌にはメラニンによる色素沈着があり、そのぶん、白人よりも紫外線による影響を受けにくいことがわかっています。紫外線に当たると骨の健康維持には欠かせないビタミンDが合成されるので、現在ではむやみに日光を避けないほうがよいとされています」

このように現時点で提供されている情報も10年後には変わっている可能性があります。だからこそ津金先生は「アップデートした最新の情報をチェックしてほしい」と言います。

数多くある健康に関する情報について、自分だけで真偽を確かめるのはとても大変なこと。まずは発信元を確認すること。そして、それが最新情報かどうかチェックすることが大切というわけです。

たばこが強力な発がん性物質であることは間違いありません

情報を得ることのほか、がんを予防するために家庭でできることはなんでしょうか?

「とにかく、たばこを吸わないことですね。受動喫煙の場合も同様に害があるので、家庭でたばこを吸わないことが、本人はもちろん家族のがん予防には最も重要です。夫が喫煙する場合、妻の肺がん死亡率は、夫が非喫煙者の場合より1.3倍高まることが日本の研究でも明らかになっています。また喫煙以外でも、家族の生活習慣を見直し、問題があれば家族で協力して改善していくことががん予防には重要です」

「生活習慣を見直すきっかけになる」と、津金先生がすすめているのは、2016年に国立がん研究センターが出した『5つの健康習慣によるがんリスクチェック』です。

「このリスクチェックでは、5つの健康習慣(非喫煙、活発な身体活動、適正なBMI値、塩蔵品を控える、節酒)について、自身の生活習慣を入力することで、今後10年の間にがんになるリスクを計算するものです。また、今後、生活習慣を改善したら、どうリスク値が変化するかもわかります。ぜひご自分やご家族の生活習慣の見直しや改善に役立ててください」

最終回では、津金先生の現在のお仕事と関心を持っていること、さらには疫学研究の今後の展望について語っていただきます。

小学館の運営するサライ.jp内に、おいしい健康との特集ページ『いのちを守る食と暮らし』があります。コロナ禍を経験した私たちが、人生100年時代をどう健康に楽しく生きていくのかを考えていきます。
こちらにも、津金先生をはじめとする医師のインタビュー記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。

https://serai.jp/save-life

撮影/フカヤマノリユキ
取材・文/高橋裕子
編集・文/おいしい健康編集部


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