人間の体のほとんどを占めているのが「水分」。それだけに、体内に十分な水分量が保たれていないと、ちょっとした不調だけでなく、重篤な病を引き起こす可能性があります。
「逆に、脱水対策をしっかりしておけば、いろいろな病気の予防や治癒に繋がるんです」と話すのは、済生会横浜市東部病院周術期支援センター長兼栄養部部長の谷口英喜先生。麻酔科医として術前、術後の「痛み」や「水分」の管理をしていくなかで気づいたのが「患者さんが術前から脱水状態であること」でした。早い段階で水分や糖分を摂取することの重要性を伝え続け、それは日々の生活でも同じことだと話します。
脱水症は、日々の生活でも知らず知らずのうちに起こっているもの。とくに近年の夏は酷暑のうえ、マスク生活もあり、よりいっそう予防や対処法を知っておくことが必要になります。数多くの患者サポートに携わってきた谷口先生に、脱水症対策のノウハウや臨床現場でのやりがいについて伺いました。5回目は、どのようなタイミングで水分補給をしたらいいのか、また、経口補水液を飲むべきなのは、どのような状態かというお話です。
水分は身体に気づかれないように摂ってください
前回は、脱水症を防ぐためには、糖分や塩分の少ない水やお茶を選びましょうというお話聞きました。谷口先生は、さらに「水分の摂り方にもコツがある」と言います。
「水分を摂ると、身体は尿として排出しようとしてしまいます。それでは水分補給になりにくい。水分を身体にためておくように摂ることが大切なんです。参考になるのは、体への吸収が高いとされる点滴です。点滴は、少しずつ時間をかけ体内に入れていきますよね。同じように、ご自身で飲む時も〝こまめに、少しずつ〟がいいんです。〝体に気づかれないように飲む〟イメージです」
仕事中でも、マグカップやペットボトルを置いておき、だいたい1時間おきのペースでコンスタントに水を飲む習慣を持つようにすると、水分が体に入りやすく、残りやすくなると言います。
「暑くなると冷えた飲み物を摂りがちですよね。しかし、体温に近い常温飲料の方が、体の消化や吸収に適しているのでおすすめです。また、毎日体重を測る習慣をつけるといいですよ。こまめに水分をとっていても体重に変化がなければ、体に吸収されているという目安になります」
経口補水液は、症状が出てから口にしましょう
よく、熱中症対策として経口補水液が紹介されています。最近ではドラッグストアなどでも気軽に買えるようになっていますが、どういった時に飲んだらいいのでしょうか?
「頭痛がする、だるいといった脱水症状が出た時だけに飲むのが基本です。経口補水液は、脱水によって減ってしまった水と塩分を口から素早く体内に取り入れられる飲料です。水と違って、補水効果が高く、吸収された後も体内にとどまるので脱水症にとても有効です。また、水分補給のスピードが早いのも利点。経口補水液だと、水分を吸収する小腸への到達が早く、飲んで10分ほどで水分を補うことができるんです。脱水症や熱中症によって脳血流に支障が起こると、後遺症が出る可能性があるので、早さが勝負になります」
体の状態を見極めて飲むものを選びましょう
ちなみに、スポーツドリンクとよく混同してしまいがちですが、経口補水液は、より電解質濃度が高く、効率的に水分を吸収することができるものです。スポーツドリンクはあくまでもエネルギー補給を重視した飲料です。
「スポーツドリンクでも十分に水分補給はできますが、糖分が多く、胃の中に残っている時間が長くなってしまうので、経口補水液の代わりにはなりません。あくまでも、栄養補給のための飲み物で、急激に血糖値が上がらないように調整もされているものです。ちなみに、スポーツドリンクの場合は、小腸に届いて吸収されるまでには約30分程度はかかるとされています」
スピードを重視するなら経口補水液、早さよりもエネルギー+水分に重きを置くならスポーツドリンクと使い分けて飲むと、それぞれの長所を最大限に利用できます。
「注意したいのが、経口補水液は塩分濃度が高いので、健康なときに普段から飲まないこと。熱中症の疑いがある時や風邪で熱が出た時など、何かしらの症状がある際に飲むべきものとしてください。マイナスをゼロにするのが経口補水液、ゼロをプラスにするのが食事や普段飲んでいる飲料と考えてください」
普通に食べ物や飲み物で塩分が摂れている状態で経口補水液を飲むと、塩分が過剰に吸収されてしまいます。スポーツドリンクの代わりでもなく、普段の水分補給として飲むものでもないと覚えておきましょう。自分の症状をきちんと把握し、どんなものをどう摂るべきか気をつけて水分補給をすることが大切です。
次回は、今のコロナ禍において気をつけるべきことについてのお話です。
小学館の運営するサライ.jp内に、おいしい健康との特集ページ『いのちを守る食と暮らし』があります。コロナ禍を経験した私たちが、人生100年時代をどう健康に楽しく生きていくのかを考えていきます。
こちらにも、谷口先生をはじめとする医師のインタビュー記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。
https://serai.jp/save-life