03

2021.5.19 更新

寛解状態を長続きさせる治療が行われます

東京医科歯科大学消化器内科 潰瘍性大腸炎・クローン病先端治療センター センター長

長堀正和先生

潰瘍性大腸炎の治療は、おおむね薬物療法から始まります。軽症から重症まで、症状の段階によって治療法が変わってきます。

まずは「薬物療法」が行われます

「薬物療法」とは、薬を投与することで腸管の炎症を抑え、腹痛・下痢・血便などの症状を軽減させた状態(寛解)に導くことを目指とする治療法です。

●主に症状が軽症〜中等度の場合
腸管の炎症を抑える「5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤」が使用されます。内服薬だけでなく、坐剤や注腸薬など、肛門から投与されることもあります。活動期の症状を抑えるとともに、再燃・再発を予防するために広く用いられています。

ステロイド局所製剤(坐剤や注腸薬)は、活動期の炎症を抑えて症状を改善するために用いられます。肛門から投与し、病変部分に直接ステロイドを届けることで、炎症や免疫反応を強力に抑制。高い治療効果と副作用軽減が期待できます。

「ステロイド経口剤・注射剤」は活動期に用いられ、中等症の場合にはステロイド経口剤、重症の場合には入院の上、ステロイド注射剤が用いられます。
ただし、ステロイドは長期的に大量に使用すると副作用が問題になります。効果が得られれば少しずつ量を減らし、3カ月などを目安に投与を中止します。
寛解を維持する効果は認められていないため、ステロイド治療で効果が得られた患者さんには、炎症を抑えるアザチオプリンなどの免疫抑制薬が寛解維持に使用されることがあります。

●主に症状が中等症〜重症の場合

これらの薬が効かなかった場合などには、生物が持つ物質(たんぱく質など)をもとにした「生物学的製剤」が使われることがあります。
生物学的製剤の「抗TNF-α抗体製剤」は、患者さんの体内に過剰に増加する「TNF-α」という物質を抑える効果があります。
「抗TNF-α抗体製剤」は、患者さんの体内に過剰に増える「TNF-α」という物質を「TNF-α」を抑えます。
「抗IL12/23抗体製剤(ウステキヌマブ)」は、インターロイキン(IL)12とIL23と呼ばれる炎症を引き起こす生体物質に対し、その作用を中和する役割を果たします。
「抗α4β7インテグリン抗体製剤(エンタイビオ)」は、リンパ球上のたんぱく質であるα4β7インテグリンという物質の働きにより、免疫にかかわるリンパ球が血管内から腸管の組織に侵入し、炎症が持続すると考えられています。このα4β7インテグリンの作用を抑える薬です。

そのほかに、「ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤」(トファシチニブ)は、細胞内のヤヌスキナーゼ(JAK)と呼ばれる酵素を阻害することでサイトカインの作用を抑えます。潰瘍性大腸炎の患者さんでは炎症を引き起こす物質(サイトカイン)が過剰に作られていると考えられています。
「血球成分除去療法(GMA)」は、血液を腕の静脈から体外循環させ、特殊な筒に血液を通過させることにより、特定の血液成分を除去する治療法です。

場合によっては手術が行われます

強力な内科的治療を行っても効果が認められない場合、大腸に穴があく(大腸穿孔)、大量の出血がある、大腸がんを合併した場合には、手術が行われます。

そのほかに、入退院の回数が多くて普通の生活が送れない、ステロイドによる重大な副作用の恐れがある、大腸以外に生じる重篤な合併症(壊疽性膿皮症など)がある場合や、小児で成長障害がみられる場合なども手術の対象になります。

手術では基本的に、大腸をすべて取り除きます。小腸で便を溜める袋(回腸嚢)をつくり、肛門を温存する手術が主流です。

<参考>『潰瘍性大腸炎の皆さんへ 知っておきたい治療に必要な基礎知識』難治性炎症性腸管障害に関する調査研究(鈴木班)

文/おいしい健康編集部

東京医科歯科大学消化器内科
潰瘍性大腸炎・クローン病先端治療センター センター長
長堀正和先生

東京医科歯科大学卒業。米国マサチューセッツ総合病院などを経て、2020年4月より現職。専門は、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群。炎症性腸疾患の発症に関する疫学研究がテーマ。厚生労働省科学研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班のメンバーでもある。

東京医科歯科大学消化器内科 潰瘍性大腸炎・クローン病先端治療センター センター長 長堀正和先生

医師の指導のもと栄養指導を受けている方は、必ずその指示・指導に従ってください。