厚生労働省の「令和3年簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳となりました。ただし、健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)は、男性は約9年、女性は約12年、平均寿命より短くなっています。
高齢化が進む中、国民一人ひとりの生活の質を維持し、かつ社会保障制度を持続可能なものとするためには、健康寿命と平均寿命との差を縮小することが早急の課題です。
そこで、日々の診療に並行して、老化、高齢者の病気、生活習慣病をテーマに研究を続けている横手幸太郎先生に、これまでの研究を通してわかってきた健康寿命を延ばすために必要なことについて伺います。
第3回では、横手先生が20年かけて取り組んできた「早老症」についてのお話です。
ウェルナー症候群は日本人に多い希少難病です
「早老症は体のいろいろな部分が普通に比べて早く老化があらわれる、老化が進んでいるように見える病気の総称です。とても不思議な病気で根本的な治療法はなく、患者さんも困っておられます。ぼくが研究しているのは早老症のひとつであるウェルナー症候群です。原因はDNAの二重らせんを解いたり戻したりする酵素の異常ですが、この異常がなぜ老化につながるのか、まだその詳細はわかっていません」
ウェルナー症候群になると、18~20歳ごろから白髪が出たり、脱毛があったり、30歳前後で白内障が出ます。糖尿病や動脈硬化やがんを発症して死に至ることも少なくありません。
「ぼくが医者になりたてのころ、ウェルナー症候群による平均死亡年齢は40歳前半でした。希少難病ではありますが、なぜか世界の症例の6割以上が日本人なんです」
なぜ日本人にウェルナー症候群が多いのかは不明です。でも困っている患者さんを治療するためには、原因をつきとめなければなりません。そのため横手先生は20年をかけて早老症の研究を続けてきました。
ウェルナー症候群の研究で老化に関連する病気の治療につなげていきたい
「ウェルナー症候群は、一般の老化とかなり共通性があります。この病気を研究していけば、老化のメカニズムや健康寿命をのばすことにつなげる知見が得られるかもしれません。患者さんの血液細胞などからIPS細胞がつくれるようになり、老化が現れている部位の細胞をIPS細胞に置き換えると細胞が若返って一旦老化を改善させることができます。ところが、再びその患者さんの老化が起きやすい皮膚や血管壁の細胞などに変えると、またたくまにまた老化に進むことがわかっています。老化が進むときにどんな遺伝子や細胞の中の物質に変化が起きているかを調べた結果、すでに老化の原因になると思われる物質の候補が複数見つかっています。その遺伝子を治すと老化が進まなくなるはずです」
これらを応用することで、ウェルナー症候群の改善はもちろん、一般的にどういう人が老化に関連する病気を発症しやすいのか、またどのような治療をすれば病気の進行を遅らせることができるのかがわかるかもしれません。横手先生は期待を持って、これからも研究を続けていきたいといいます。
第4回では、横手先生の研究を通して、現時点でわかっている健康寿命を延ばすために必要なことについて伺います。
編集/おいしい健康編集部