4.健康寿命を延ばすために必要なこと

生活習慣病

2023.09.20 更新

厚生労働省の「令和3年簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳となりました。ただし、健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)は、男性は約9年、女性は約12年、平均寿命より短くなっています。

高齢化が進む中、国民一人ひとりの生活の質を維持し、かつ社会保障制度を持続可能なものとするためには、健康寿命と平均寿命との差を縮小することが早急の課題です。

そこで、日々の診療に並行して、老化、高齢者の病気、生活習慣病をテーマに研究を続けている横手幸太郎先生に、これまでの研究を通してわかってきた健康寿命を延ばすために必要なことについて伺います。

第4回では、横手先生の研究を通して、現時点でわかっている対策についてのお話です。

長く生きるよりも、健康でいることのほうが重要です

これまで横手先生は、老化や高齢者の生活習慣病を中心に取り組んできました。医師になって30年の後半は単に寿命をのばすのではなく、元気に楽しく長生きすること、つまり健康長寿について考えてきたといいます。

「ぼくの子どものころは『おじいちゃん、おばあちゃん長生きしてね』というのが祖父母に贈る最も嬉しい言葉だったと思います。でも今、老人ホームで暮らすご高齢者の方々に同じことを言うことが果たして適切なのか、また言われるほうも嬉しいのか、この10~15年ずっと考え続けてきました」

今から50年前は100歳以上の人は数百人単位でしたが、今は10万人に届こうとしています。それだけ長寿にはなっていますが、人生最後の5~10年を全員が健康で幸せに生きているかというと、医学的にも経済的にも社会的にも必ずしもそうなってはいないようです。これは誰しもが考えていかなければならない問題です。

「みんなが元気で長生きする、それを実現させることが社会にとっても大きなメリットがあります。たとえば、少子化で労働力が減るなか、高齢者が元気なら労働力を提供できて社会の役に立てるはずです。そんな社会を実現させるために、ぼくは診療と研究の両側面から貢献していけたらと思います」

健康寿命を延ばすためにも、生活習慣病は予防することが大切です。もしなってしまったら、放置することなく、生活習慣の改善と治療が必要。横手先生は、このことを患者さんはもちろん、健康な人たちにも知ってもらうことが重要だといいます。

生活習慣病は自覚症状が出にくく、健診などで指摘されても受診しなかったり、「薬を飲めば大丈夫」と生活習慣を改善しようとしない人も少なくありません。生活習慣病を放置することが、健康寿命を短くするリスクがあるということを認識してもらうことは、そう簡単ではなさそうだからこそです。

「取り組みのひとつとして、社会的には、講演会やメディアなどを通して啓発活動を行うことがあります。また、たとえば頸動脈の超音波検査をして、動脈硬化の兆しを患者さん自身の目で確認してもらうなど、診療の場で伝えることも可能です。さまざまなツールを使いながら、コツコツと生活習慣病について理解してもらうように働きかけていかなければなりません」

60、70代は必要な栄養を摂って筋肉や骨の衰えを予防したいですね

これまで食生活については「肥満の人はやせる」「血圧が高い人は塩分を減らす」「コレステロールが高い人は飽和脂肪酸を減らす」など、食べる量や摂るものを減らすことが推奨されてきました。

「食の欧米化に伴って増えてしまったメタボや肥満を減らしていこう、という流れになっています。一方で75歳以上になるとフレイルやサルコペニアの心配が出てきますので、タンパク質、カルシウム、ビタミンDなどの栄養はしっかり摂る必要があります」

50歳代はメタボ対策に取り組んでいた人も、60・70歳代になったら「筋肉を落とさない」という目的を持って、もう一度食生活と運動を見直すことが必要になるそうです。

「減らす方向から増やす方向へ、切り替えの時期は人によって異なります。『以前よりもそんなに太らなくなった』『活動性が落ちた』など、老化による変化が出てきたら、むやみにやせるのではなく、筋肉力を維持して活動性を保ち、必要な栄養を摂っていくことが重要です」

最後回では、横手先生ご自身の健康寿命を延ばすためにやっていることのお話と、読者へのメッセージをいただきます。


取材・文/高橋裕子
編集/おいしい健康編集部