咳が長く続き、呼吸が息苦しいことがよくある。タバコが原因かもしれないと思いつつも、なかなかやめられない。まわりから「やせたね」といわれることが増えた……。
「自分に当てはまっている……」と感じた人は、COPDという慢性閉塞症肺疾患の可能性があるかもしれません。
COPDとは、肺に慢性的な炎症が起こり、構造が壊れてしまう疾患。その原因のほとんどが喫煙といわれています。数多くのCOPDの患者さんを診てきた呼吸器内科医の福永興壱先生は、「この病の大変さは、咳や息苦しさに加えて、食欲が落ち痩せてしまうことです。十分な栄養が摂れず、体力が低下して動かなくなると筋肉が落ちてしまう。こういった悪循環がCOPDを悪化させる要因です」と言います。
肺の生活習慣病と言われるCOPDを治療するうえで不可欠なのは「患者さんとの会話」だと話します。話のなかで得た情報をもとに、生活スタイルに合わせた治療法や生活習慣の改善を指導している福永先生。患者さんとの向き合い方や治療において大切にしていることを伺いました。
最終回は、先生が患者さんと接するうえでの心がけについてお聞きしました。
まず、患者さんが何に一番困っているのかを聞きます
COPDの患者さんの多くは60歳以上の方々です。福永先生は、普段の診察でどのようなことを意識しているのでしょうか。
「初診の際に“一番困っていること“を、まず聞くようにしています。具体的には”息苦しくないか”を必ず確認しますね。息苦しさにもレベルがあって、ゴルフでラウンドをまわるのに数年前と比べて息苦しさを感じないか、お風呂に入っている時に苦しくならないかなど、どの程度の辛さかを見極めていきます」
会話を重ねていくうちに、患者さんの暮らしぶりが少しずつ見えてくるといいます。
「食欲はどうですか、奥さんが毎食作ってくれるんですか?と食事の話をすると家族構成が見えたりしますね。散歩でどれくらい歩くんですか?と聞くと行動範囲が分かり、運動不足対策をどう進めるかを考えるヒントになります」
限られた診療時間の中で、患者さんが会話しやすい雰囲気を作り、話を引き出すように心配りされていることが伝わってきます。
「20〜30代の頃から高齢の患者さんと接する機会が多かったので、患者さんからいろいろなことを学びながらここまで来たと思います。お年寄りにはどういった説明の仕方がわかやすいかを考えることが多く、たくさんの方々と接してきたことで磨かれたスキルのように感じます」
憧れは「Dr.コトー」のような自転車で村をまわる医者でした
そのように患者さんとのコミュニケーションを大切にする福永先生は、子供の頃から医師になりたかったと振り返ります。
「憧れたのはドラマの主人公『Dr.コトー』のような医者でした(笑)。自転車にのって村をまわり、地元のおばあちゃんとお茶を飲みつつ、血圧注意してくださいねと世間話しながら診療するような感じです。地域に根ざした医師になりたいと思っていました。
結局は大学病院で働いていますが、外科より内科医のほうが自分に向いていると思い、呼吸器内科医を選びました。患者さんとの会話の中で考えていく形がいいなと思って。COPD以外にも、喘息、睡眠時の無呼吸症候群といった多種多様な疾患と向き合っていますが、全身を診るジェネラルな視点を持てるところにも、やりがいを感じたんです。その思いは今も変わりません」
柔らかな物腰で患者さんの声に耳を傾けながら、さまざまな角度から診察を続けている福永先生。話すだけで気持ちが晴れ晴れするような気さくな人柄が滲み出ているドクターです。
編集/おいしい健康編集部