小学校6年生のときに1型糖尿病にかかり、それがきっかけで医師をめざしたという市原由美江先生。現在は糖尿病専門の医師として活躍しています。1型糖尿病がどういう病気なのか、また、ご自身の病気がわかったきっかけやなぜ医師をめざすことになったのか、お話を伺うページです。
「5.低血糖時は、自分なりの補食を安心材料に」では、日々の暮らしのなかで低血糖になった際の補食について聞きました。今回は、血糖値を一定に保つため、毎日無理なく続けられる工夫について伺います。
簡単なルールを作ると楽になります
1型糖尿病の治療では、カーボ=糖質をどれくらい摂ったかで、必要なインスリンの量を決めていくというのが、現在の主流。市原先生自身も、日々の食生活の中で調整しています。
「摂取するカーボの量を一定にしておくと、インスリンの量も一定にできるので、計測がぐっと楽になります。とはいっても、毎食一定にするのは難しいもの。私の場合は、朝食のカーボの量をいつも同じにするようにしています」
ご飯なら茶碗に軽く一杯、パンなら一枚など、数値を把握している食材があれば、いちいちカーボカウントをしてインスリン量を計測して、という手間がなくなるというわけです。
「私はいつも朝食は食パン一枚。それも5枚切りのものです。4枚だと糖質が45gほどなのでちょっと多い。5枚だと35gです。それに牛乳を一杯と卵焼きというパターンが多いですね」
一日の始まりに面倒なことはしたくないもの。生活のリズムを整えるうえでも、朝食がスムーズだと気持ちよくすごせます。もちろん、昼食や夕食も決めておけば楽かも知れません。
「でも、他の食事まで固定してしまうと毎日三食同じものを食べ続けるということですよね。それはそれでつまらない。もちろんその方が楽な人はいいと思います。ただ私は朝だけとした方が気が楽で、無理なく続けられています」
無理なくできることを実践し続けていると、日々の食生活に対して楽な気持ちで向き合うことができるのでしょう。
「『病気だから』と食生活を細かく制限してがんじがらめになってしまうとつらくなるし、生きることそのものが楽しめなくなってしまいます。食生活とも病気とも、ストレスなく付き合っていくことが大切だと思います」
市原先生自身も、友人との食事を楽しむ時間を持ったり、甘いものを食べることもあったりするそう。カーボの量については、その前後でうまく調整をすればいい、と言います。
外食では、脂質に気をつければ安心です
外食では、ご飯やパンなどの炭水化物の糖質量は、目に見えるため、計測はしやすいもの。
ただ、脂質についてだけは目に見えないので、どんな油がどれくらい使われているかを見極めるのは大変です。脂質は食後の血糖値を上昇させる働きがあるうえに、インスリンの効きを悪くさせます。
「たとえば焼肉に行くと、翌日の朝に血糖値が上がってしまっているんです。あー、夜にインスリンのベースをあげておけばよかったと後悔することも。なので、あらかじめ油を多く摂りそうだな、ということがわかっているときは、普段よリ少しインスリンの量を増やします。他にも、長くゆるく効く種類のインスリンを取り入れればいいと思いますよ」
少しずつ試しては、自分の体の変化を観察し、対応策を考えてきたのです。やみくもに脂質を制限するのではなく、楽しむためにどうすればいいかを考えればいいということがわかります。
「自由な日を設定してもいいんです。じゃないと治療を続けることが苦痛になってしまう。縛られすぎずに考えてほしいです」
「7. ほどよい運動『ピラティス』について」に続きます。
写真/近藤沙菜