1.食事と病気の関係を調べるために研究医の道へ

食習慣と病気

2022.07.12 更新

大学の医学部を卒業してから現在に至るまで、研究医の道を走り続けてきた津金先生。大学医学部の助手を経て、国立がんセンター(現・国立がんセンター)、そして同センターがん予防・検診研究センター(現・社会と健康研究センター)と活動の場を得て、疫学・予防研究の第一人者として生活習慣とがんなどの関係について研究してきました。

今は、日本人の2人に1人以上がかかるというがん。予防や対策についての情報が数多くあり、何をどう取り入れたらいいのか、どんなことに気をつけて日々を過ごせばいいのか、悩むこともあるかもしれません。なるべくがんにならないために、私たちがすべきことは何でしょうか? 津金先生に、長年の疫学研究で得た科学的根拠に基づくがんの予防法について伺いました。

第1回目は、なぜ津金先生が臨床医ではなく研究医の道を選び、食事と病気の関係をテーマに研究を始めるに至ったのか、そのきっかけについてのお話です。

南米への訪問で、食事と病気の関係をより深く考えるようになりました

「医学部6年生の夏休み、ブラジルやボリビアなど南米を訪れる機会がありました。南米には多くの日本人移住者とその子孫(日系人)がいます。興味深かったのは、歴史と規模の違いもあるのですが、ブラジルでは、日系人がブラジル社会に溶け込んで暮らしていたのに対し、ボリビアでは、沖縄からの移住者と、九州を中心とした移住者が、それぞれ別の日本人コミュニティを作って生活していたこと。彼らは、現地の食事ではなく、以前から食べ親しんでいた日本食を大事に食べる生活をしていました」

南米の日系家庭で南米各国の料理や日本食をごちそうになりながら、日本とは共通点の少ない南米で、日本の生活習慣を維持している人たちの健康状態に興味を持ったという津金先生。毎日の食事に差があれば、それぞれの食事の特徴が特有の病気の発生率と関係するのではないかと考えたそうです。具体的にどのようなことを調査したのでしょうか? 

「最初に発表した論文は、海のないボリビアへの移住者の魚介類の摂取頻度の違いが、毛髪中の水銀濃度に影響するという内容でした。ボリビアでの調査で、毛髪の水銀量は夫婦で相関し、魚を食べる頻度が高いと毛髪の水銀量も高くなるということがわかりました。さらに、同じボリビアに住んでいる日本人でも、沖縄出身者はあまり川魚を食べません。ところが、長崎や福岡などの出身者は、アマゾン源流の川からとれた魚をよく食べます。そのため、九州出身者の毛髪中の水銀濃度が、沖縄出身者よりも高かったんです」

魚は健康によいとされる食材ですが、食べ過ぎると魚が取り込んだ水銀が人の健康に害を及ぼすといったマイナスの面もあります。本来、水銀は海水に含まれており、海洋生物の食物連鎖の結果、まぐろなど大型の回遊魚に多く取り込まれます。ところがアマゾンの川魚にも水銀は含まれていたのです。

「アマゾン川下流で水銀に付着させる方法で金を採掘していたために、大量の水銀が川に流れ込み、川魚でも水銀を含んでいたのではないかと考えられます。また、ボリビア人と日本人移住者の血圧を比較したところ、日本人は子どものころから血圧が高いこともわかりました。これはボリビア在住の日本人移住者が、食塩が多い日本の食文化を維持していたからだと想像できます」

より深く関連を調べたいと研究医を目指したんです

津金先生は、ラテン特有の“明日のことは考えず、その日が楽しければいい”という陽気な国民性にもひかれたそうです。

「ラテンの明るい雰囲気が大好きでした。それから1年に1回は南米に行き、特定の集団で食事など生活習慣と病気の関連を調べるようになったんです。そのころには、南米に限らず、いろいろなフィールドでデータをとりながら、食事と病気との関係を調べたいと考えるようになっていましたから、すでに研究医の道が見えていたのかもしれませんね。もし、患者さんをもつ臨床医になれば、継続的な調査はちょっと難しい。そう考えて、自由に調査や研究ができる研究医を選びました。そして86年に国立がん研究センターに入所したことがきっかけで、がんという病気を軸に研究することになりました。南米のフィールドも、日系人が多く、がんの疫学研究を展開出来るブラジルサンパウロを拠点にしました」

もっと良く知りたい、詳しく調べたい。そんな気持ちが津金先生を研究医への後押しになったのです。次回は、国立がん研究センターで取り組まれた研究について伺います。

小学館の運営するサライ.jp内に、おいしい健康との特集ページ『いのちを守る食と暮らし』があります。コロナ禍を経験した私たちが、人生100年時代をどう健康に楽しく生きていくのかを考えていきます。
こちらにも、津金先生をはじめとする医師のインタビュー記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。

https://serai.jp/save-life
撮影/フカヤマノリユキ
取材・文/高橋裕子
編集・文/おいしい健康編集部