2.生活習慣の改善が、がんのリスク低下に

食習慣と病気

2022.07.22 更新

大学の医学部を卒業してから現在に至るまで、研究医の道を走り続けてきた津金先生。大学医学部の助手を経て、国立がんセンター(現・国立がんセンター)、そして同センターがん予防・検診研究センター(現・社会と健康研究センター)と活動の場を得て、疫学・予防研究の第一人者として生活習慣とがんなどの関係について研究してきました。

今は、日本人の2人に1人以上がかかるというがん。予防や対策についての情報が数多くあり、何をどう取り入れたらいいのか、どんなことに気をつけて日々を過ごせばいいのか、悩むこともあるかもしれません。なるべくがんにならないために、私たちがすべきことは何でしょうか? 津金先生に、長年の疫学研究で得た科学的根拠に基づくがんの予防法について伺いました。

第2回では、先生が今まで取り組んできた研究で苦労したこと、そして研究の結果わかってきたことについてのお話です。

津金先生が長年取り組んでいるのが「疫学研究」。人間の集団を対象に、病気の広がりや増減などを明らかにするという研究です。津金先生は、約10万人の人たちを30年以上追跡して生活習慣と病気の関連について調べ、がんなどの病気の予防法を探ってきました。

人の生活習慣は実験室で再現できるものではありません。どういう生活習慣の人が病気になりやすいのか、または、なりにくいのかを長い年月をかけて追跡調査する必要があります。疫学研究では、万単位の人たちを対象に長期にわたって調査するため、やりがいを感じながらも、苦労が少なくなかったと振り返ります。

「何をどれくらい食べたのか」という調査に苦労しました

「生活習慣のなかでも、特に食に関する調査は難しかったですね。例えば『1日でビタミンCを何mg口にしたのか』『夕食でたんぱく質を何g摂ったのか』といった、一人ひとりの正確な栄養摂取量を算出することはとてもできません。そこで、食品ごとに、その人がどのくらいの頻度で食べたかを答えてもらう『食物摂取頻度調査』を行いました。当初は、40程度の食品グループに対して『ほとんど食べない』『月1~2回』『週1~2回』『週3~4回』『ほとんど毎日食べる』の5つの選択肢から、自分にあてはまるものを選んでもらう調査票を使っていましたが、これでは詳細な栄養摂取量が分からない。そこでさらに、主な栄養素の80%程度をカバーする約140食品について、10段階で頻度を聞くと共に、目安量を与え3段階で定量評価できるようにしました。そして、調査票から推計された栄養摂取量の多少で5つのグループに分けて、がん発生率を出して比較するわけです」

研究が長期にわたるにつれ、社会情勢が変わることもあります。個人情報保護法や研究倫理などが登場して、研究者はつど対応しなければなりませんでした。今は文書でインフォームドコンセントをとらなければならないなど、以前より調査のための手続きに時間やお金がかかるようになり、そういった面での苦労も多いのだそう。

疫学研究でがんを予防する方法が見えてきたんです

社会情勢の変化に対応しながら、コツコツと続けてきた研究の結果、日本人の主ながん因子は、喫煙、飲酒、食事、身体活動、体形、感染の6つであることがわかってきました。この中で感染を除く5つは生活習慣にかかわります。

「最も悪影響を及ぼすのが喫煙です。喫煙者がたばこをやめれば、がんになる確率を3分の2までに減らすことができます。受動喫煙の場合も同じ害がありますから、たばこの煙は避けるべきだと考えています」

飲酒については「飲むならほどほどに」と津金先生は言います。適量なら心疾患などを予防する効果がありますが、適量を超えると肝臓や大腸、食道がんなどの発がんリスクが高まるそうです。

また、ふだんの身体活動量が多い人は、そうでない人よりも大腸、子宮体、乳がんなどのリスクが下がることが明らかになっています。

「厚生労働省は、65歳以上の人は毎日40分、18~64歳の人は毎日60分の身体活動を行うことを推奨していますが、体力には個人差がありますから、無理をすることはありません。普段体を動かす習慣がない人は、今より5分でも10分でも意識して体を動かすだけで、がん予防の効果はあります」

肥満も、国際的に発がんリスクとして検出されるのはBMI30を超える人たちで、日本人には少なために、はっきりしない側面はありますが、日本人でも肝臓、乳房、大腸などの発がんのリスクを高めることがわかっています。「だからといって、やせていればいいわけではない」と津金先生は言います。

「栄養が十分でなければ、免疫の働きが低下してがん細胞の増殖が進みやすくなるため、やせ過ぎでも発がんのリスクが高くなります。過剰なダイエットも危険です」

健康維持には、中高年の男性はBMI値が21~27、女性はBMI値が21~25の範囲で体重管理することが推奨されています。食事と運動で体重をうまくコントロールしていくことが大切だとわかります。

次回はがん予防のための食事について伺います。

小学館の運営するサライ.jp内に、おいしい健康との特集ページ『いのちを守る食と暮らし』があります。コロナ禍を経験した私たちが、人生100年時代をどう健康に楽しく生きていくのかを考えていきます。
こちらにも、津金先生をはじめとする医師のインタビュー記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。

https://serai.jp/save-life
撮影/フカヤマノリユキ
取材・文/高橋裕子
編集・文/おいしい健康編集部

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