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2021.4.23 更新

腎臓に負担をかけない生活習慣

東京医科大学病院 腎臓内科主任教授

菅野義彦先生

なぜ慢性腎臓病になるのか、どうしたら食事以外でも腎臓病の進み方を遅らせることができるのか、気になる方は多いことでしょう。
慢性腎臓病の原因や治療の目標、腎臓の負担を軽くする生活習慣について説明します。

腎臓は生活習慣病の被害者

腎臓の働きが低下する。尿に必要以上のたんぱく質が出る。そういった腎臓の異常が続く状態を「慢性腎臓病(CKD)」と呼びます。
腎臓病の発症は20代がピーク。50〜60代で慢性腎臓病を発症する人は、腎臓自体はもともと健康なので、慢性腎臓病についても腎臓そのものに原因があるわけではありません。高血圧、糖尿病などの生活習慣病による代償を腎臓が払う羽目になっているケースがほとんどです。腎臓はいわば「生活習慣病の被害者」です。

治療の目標は「腎臓の機能を保つこと」

「02 重症になるまで病気を自覚しにくいのが腎臓病」で説明した通り、残念ながら腎臓病が完治することはありません。ですから治療の目標は、今の腎臓の機能を保ち、透析までの期間をできるだけ伸ばすことです。
病気の進み方を遅らせるには、腎臓の負担を軽くすることが大切です。一つの目安になるのは、血圧です。血圧は高すぎても低すぎても腎臓によくありません。高血圧がある人は血圧を下げるなど、生活習慣病をきちんと治療することで、腎臓の負担が軽くなります。

生活習慣の見直しポイント

腎臓に負担をかけない生活習慣のポイントは次の通りです。

◎医療機関だけでなく自宅で血圧を測る
腎臓の調子を自分で知ることは難しいですが、血圧はいつでも自宅で測れます。医療機関での血圧より、自宅や職場など、普段の血圧が大切です。医療機関で血圧を測ると、長い待ち時間によるイライラや緊張から日常より血圧が高くなる傾向があります。朝と夜の1日2回、自分で血圧を測りましょう。最初は週に3、4回で構いません。自分の体の状態を毎日チェックすることを習慣にするのが大切です。

◎こまめに水分を摂る
腎臓は脱水によってダメージを受けると言われています。人が活動している限り体内にはゴミがたまり、ゴミを水と一緒に尿として体外に排出しています。脱水の状態だと、少ない水にいっぱいのゴミを詰め込むことになるため、腎臓に負荷がかかるのです。こまめに水分を補給するように心がけると、脱水を防げます。なお、既に水分の摂取について医師の指示を受けている場合は、指導に従ってください。

◎風邪薬を飲む期間を短くする
風邪の時に飲む市販の解熱鎮痛剤には、何日も飲みつづけると腎臓に負担をかけるものがあります。何日も飲み続けるのではなく、症状が出たらすぐに飲んで、早めに治すことが大切です。風邪薬を飲んでいる期間を短くすれば、腎臓への負担を軽くできます。

◎必要なエネルギーをきちんと摂る
腎臓病で食事制限が必要とわかったら、とにかく食べる量を大きく減らそうと思う方がいるかもしれません。しかし、食事からのエネルギーが極端に減ると、筋肉が減るなどかえって体に悪影響を与えます。慢性腎臓病で食事療法中の方に適切な1日あたりのエネルギー量は1600kcal程度です。食べられる量を守って、体力をつけることが大切です。

◎適度な量ならお酒を飲んでも大丈夫
度を超さなければアルコールを飲んでも大丈夫です。1日のアルコールは20g以下が目安になります。アルコール20gの目安は、ビールならロング缶1本(500ml)、日本酒なら1合程度、ワインならグラス2杯弱(200ml)です。
ただ、おつまみは味付けが濃いものが多め。塩分が多いと腎臓の負担になります(「05 腎臓の負担を軽くする減塩」を参照)。冷やしトマトや鶏ささ身の焼き鳥など、塩分控えめのものを選びましょう。

<参考> 日本腎臓病学会編集「エビデンスに基づく CKD診療ガイドライン2018」(東京医学社)

<参考> 菅野義彦ほか監修「食事療法はじめの一歩シリーズ 腎臓病の満足ごはん」(女子栄養大学出版部)

文/おいしい健康編集部

東京医科大学病院
腎臓内科主任教授
菅野義彦先生

1991年慶應義塾大学医学部卒業。同大学院医学研究科、米国留学、埼玉社会保険病院腎センター、埼玉医科大学腎臓内科、慶應義塾大学医学部血液浄化・透析センターを経て、2013年より現職。

東京医科大学病院 腎臓内科主任教授 菅野義彦先生

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