血液透析を開始する前は厳しいたんぱく質制限を行っていた人も、透析を始めたら「しっかり食べる」食事へと切り替え、必要なエネルギーを摂取する必要があります。透析開始後の食事の「適量」を理解しましょう。
厳しい食事制限に慣れた人は切り替えを
腎臓の機能が低下したけれど、透析が必要になるほどではないという時期は、一般的に、たんぱく質の摂取量を厳しく制限する食事療法を行います。これは、たんぱく質を分解するときにできる老廃物をできるだけ少なくして、腎臓への負担を軽くするのが目的です。
しかし、透析が始まったら、透析が腎臓の働きを代わりに行うので、体内に蓄積された老廃物や余分な水分を排出できるようになります。そのため、「腎臓の負担になるものを余分に食べない食事」から「必要な栄養をバランスよくしっかり食べる食事」へと切り替える必要があります。
透析が始まる前の食事に慣れてしまった人は、「しっかり食べる」ことに罪悪感を持ったり、恐怖心を抱いたりすることがあります。急に食べる量を増やすのは難しいかもしれませんが、主治医と相談しながら、適量を食べる食生活を目指しましょう。
しっかり食べると筋肉の分解を防げます
たんぱく質の摂取量を厳しく制限する食事を続けた人は、「しっかり食べる」食事を負担に感じる場合があります。
しかし、食事からとるエネルギーが不足すると、筋肉を構成するたんぱく質を分解してエネルギー源にしてしまうため、筋力が低下することになります。また、食べる量が不足すると、貧血や血清アルブミン値の低下の原因にもなります。
以上のような理由から、透析を始めたら毎食しっかり食べて、十分なエネルギーを補給する必要があるのです。
エネルギー補給食品を上手に活用しよう
「しっかり食べる」ことができず、エネルギー量が不足しがちなときは、一度にたくさん摂取できてエネルギー量を増やせる、「エネルギー補給食品」を活用しましょう。
砂糖や食用油、でんぷんなどで作られているので、エネルギーをしっかりと確保できます。
また、食欲がなくて食事を十分にとれない場合は、主治医に相談して濃厚流動食を試してみるのもいいでしょう。
透析で除去できる量が適量
透析によって水分やカリウムなどをある程度除去できるようになりますが、安全に除去できる量には限度があります。そのため、食事や飲料から摂取する水分やカリウムなどの量は、透析でコントロールできる量に調整する必要があります。
例:標準体重60㎏の場合
エネルギー:1800kcal
(標準体重1㎏あたり30~35kcal)
たんぱく質:60g前後
(標準体重1㎏あたり0.9~1.2g)
食塩:6g未満
カリウム:2000㎎以下
リン:900㎎以下
※標準体重
=身長(m)×身長(m)×22
エネルギー量とたんぱく質の量は標準体重によって変わりますが、食塩、カリウム、リンは、体重にかかわらずこの量が適量です。
透析を始める前から腎臓病の食事療法を行ってきた人は、食事の適量が増えるので、「食べてはいけない」とセーブする習慣は改める必要があります。
反対に、腎臓の機能が低下している自覚がないまま腎不全が進み、いきなり透析治療が始まった人は、これまでと同じような食事を続けると体への負担が大きくなったり、透析による血液浄化では不要物が取り切れず、合併症などを起こしたりする可能性があります。まず食塩を減らすことから始め、たんぱく質の摂取量も見直しましょう。たんぱく質の量が多い食品にはカリウムやリンも多く含まれているため、たんぱく質を適量にすると、カリウムやリンも適量に近づけることができます。
<参考>菅野義彦 病態監修『透析・腎移植の安心ごはん』(女子栄養大学出版部)
<参考>宮本佳代子 監修『腎臓病 透析患者さんのための献立集 改訂版』(女子栄養大学出版部)
文/東 裕美