2.治療の鍵は、悪循環を止めること

慢性閉塞症肺疾患の治療

2022.08.30 更新

咳が長く続き、呼吸が息苦しいことがよくある。タバコが原因かもしれないと思いつつも、なかなかやめられない。まわりから「やせたね」といわれることが増えた……。
「自分に当てはまっている……」と感じた人は、COPDという慢性閉塞症肺疾患の可能性があるかもしれません。

COPDとは、肺に慢性的な炎症が起こり、構造が壊れてしまう疾患。その原因のほとんどが喫煙といわれています。数多くのCOPDの患者さんを診てきた呼吸器内科医の福永興壱先生は、「この病の大変さは、咳や息苦しさに加えて、食欲が落ち痩せてしまうことです。十分な栄養が摂れず、体力が低下して動かなくなると筋肉が落ちてしまう。こういった悪循環がCOPDを悪化させる要因です」と言います。

肺の生活習慣病と言われるCOPDを治療するうえで不可欠なのは「患者さんとの会話」だと話します。話のなかで得た情報をもとに、生活スタイルに合わせた治療法や生活習慣の改善を指導している福永先生。患者さんとの向き合い方や治療において大切にしていることを伺いました。

2回目は、先生が取り組んでいる治療についてのお話です。

悪化のスピードをできるだけ遅らせる治療を目指しま

呼吸という生命維持に欠かせない仕組みに支障を与えるCOPDですが、適切な治療を行えば完治するのでしょうか。

「残念ながら、一度壊れた肺は元に戻ることはありません。対策としては、壊れていない箇所を温存し体への負担を軽減させる治療になります。だからこそ、できるだけ早い段階で診察を受け、悪化のスピードを遅らせる必要があるんです」

薬物療法のひとつが、喘息の患者さんによく使われる気管支拡張剤。

「COPDの患者さんは酸素を吸うことはできても、二酸化炭素をすべて外に吐き出すことがスムーズにいかなくなる傾向にあります。そのために、気管支拡張剤で出口を広げて息苦しさを和らげていきます」

COPDの患者さんの肺を風船に例えると、息を吸って風船を膨らませた後、息を吐こうとしても吐き出し部分が壊れた状態のために十分に外に出すことができず、空気が残ったままの風船が肺の容積を占めている状態。空気を入れるスペースが狭まることで、呼吸しても十分に空気を取り入れることができず、息苦しさを覚えてしまうのです。

辛さを和らげることでプラスの循環を生み出します

「息苦しいと、体を動かすことがしんどい→家にこもりがちになる→動かないので食欲が落ちる、といった悪循環が生まれます。

食欲がないからと十分な食事をしないと、栄養障害が起きます。すると、筋肉が落ちやすくなったり、運動不足で体内の酸素量が少なくなると潰瘍ができやすくなったりと、併存した問題が生じてしまうんです。

悪循環を断ち切る一歩として、薬物療法で息苦しさを軽減することができます。不調が改善されれば、体を動かそうという気力も出てきて筋肉がつき、食欲もわいて栄養を摂れる。プラスの循環が生み出せれば、患者さんもだいぶん楽になります」

もちろん、薬物療法以外にも呼吸法や運動療法、食事療法といったように患者さんの状態に合わせたアプローチをしていきます。

禁煙は、楽しみながらできる工夫を

COPDの原因となるのが喫煙であり、タバコをやめることが肺を守るために必要不可欠になります。

「好きなものを奪うというのは、患者さんにとってかなり大変なことですよね。タバコを吸ったら病気が悪化するよと怖がらせるというのは、うまくいきません。

喫煙は依存症であり、カウンセリングや禁煙に向けてのアドバイスなどを行っていますが、数年前に始めたのがアプリケーションを使った喫煙対策です。適切なアドバイスをしながら禁煙を習慣化できるようなアプリを後輩の医師が会社を立ち上げ開発し、処方薬とセットであればアプリを保険適用できるようになりました」

アプリでの禁煙は少しずつ効果が見られていると言います。

また、禁煙の一歩として、電子タバコを利用する人が増えていますが、害はないのでしょうか。

「電子タバコは安全とは言い切れません。一般のタバコに比べて、ニコチン量や発癌物質が少ないものの、有害物質が使われているのは同じなので、肺への障害を起こす可能性はあります」

すぐに禁煙とはいかないものの、一歩、一歩、タバコを遠ざける習慣を築くことが必要になるのです。

次回は、治療法の中でも特に食事療法についてお聞きします。

取材・文/梅崎なつこ
編集/おいしい健康編集部



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