3.カロリーアップのための食べ方術

慢性閉塞症肺疾患の食事療法

2022.09.15 更新

咳が長く続き、呼吸が息苦しいことがよくある。タバコが原因かもしれないと思いつつも、なかなかやめられない。まわりから「やせたね」といわれることが増えた……。
「自分に当てはまっている……」と感じた人は、COPDという慢性閉塞症肺疾患の可能性があるかもしれません。

COPDとは、肺に慢性的な炎症が起こり、構造が壊れてしまう疾患。その原因のほとんどが喫煙といわれています。数多くのCOPDの患者さんを診てきた呼吸器内科医の福永興壱先生は、「この病の大変さは、咳や息苦しさに加えて、食欲が落ち痩せてしまうことです。十分な栄養が摂れず、体力が低下して動かなくなると筋肉が落ちてしまう。こういった悪循環がCOPDを悪化させる要因です」と言います。

肺の生活習慣病と言われるCOPDを治療するうえで不可欠なのは「患者さんとの会話」だと話します。話のなかで得た情報をもとに、生活スタイルに合わせた治療法や生活習慣の改善を指導している福永先生。患者さんとの向き合い方や治療において大切にしていることを伺いました。

3回目は食事療法においてのポイントを教えていただきます。

慢性的な炎症がエネルギーを奪っています

患者さんからの悩みで多いのが食事のことだと福永先生は言います。

高血圧、糖尿病など多くの生活習慣病は、肥満にならないようにダイエットを勧められますが、COPDの患者さんの場合は反対に「体重を増やすこと」がミッションになるからです。

「体重が減少する理由は、息苦しくて動かなくなって食欲が落ちるからだけではなく、肺に炎症が常に起きているためでもあります。皆さんも高熱が出ると体がぐったりしますよね。そこまでではないにしろ、COPDの患者さんにおきている慢性的な炎症は、体からエネルギーを奪っているんです」

健康な人は、呼吸するだけで1日36〜76kcalのエネルギーを消費しています。しかし、肺の機能が衰えているCOPDの患者さんの場合は、1日430〜720kcal。一生懸命呼吸をしないといけないため、健康な人の10倍近くのエネルギーを使っていると言います。

「エネルギーのアウトが多くてインが少ないのでカロリーが奪われていき、どんどん痩せていってしまうのが患者さんにとっての悩みでもあります」

特に6ヶ月以内に10%以上の体重減少が起こっている場合は注意が必要。QOL(生活の質)が低下するだけでなく、体重減少が続くと命にもかかわってきます。

食べる回数や食材選びなど、工夫の仕方をアドバイスします

「患者さんにとって辛いのは、がんばって食べろとプレッシャーをかけられることです。ご家族の方には、『食べさせ術』を工夫してみてくださいとアドバイスしています。心にも体に負担をかけないように食事を楽しんでもらうコツなんです」

【食べさせ術の例】

・外から帰ってきた直後ではなく、一度休憩して落ち着いてから食事を始める。

・食事前に水分を摂りすぎると満腹になってしまうので控える。

・食べる順番は、高カロリーのものから。満腹になる前にできるだけ多くのカロリーを摂取する。

・5〜6回に分けて1回の食事量を少なくする。

おすすめのおやつは、シュークリームなんです

COPDの患者さんは、1日に必要な1800kcalを目指しながら、栄養バランスについても意識する必要があります。三大栄養素である「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」はどのような比重で摂ったらいいのでしょうか。

「バランスとしてはたんぱく質、脂質をメインにして、炭水化物はその次に摂るという流れがいいんです」と、福永先生。

理由は、炭水化物は摂取すると体内に二酸化炭素が作られるためです。吐き出す力が弱く、二酸化炭素を体内に溜めやすいCOPDの患者さんにとっては、二酸化炭素をできるだけ体内に入れないほうが安心です。二酸化炭素が増え続けると、血液が酸化して、肺だけでなく他の臓器にも悪影響を及ぼすことに。炭水化物は抑えてたんぱく質や脂質を優先しましょう。

「ある糖尿病の先生から、手軽にカロリーを摂るならシュークリームがいいですよと教えてもらったんですよ。確かに脂質が多くてカロリーが高く、やわらかくて食べやすい。カスタードだけでなく、ストロベリーや抹茶など、いろいろな味が楽しめます。患者さんから、何を食べたらいいですか?と聞かれたときは、帰りにシュークリームを買ってみてください、とすすめています」

“食べることが楽しい“と思える工夫をアドバイスしながら、患者さんを支えていることがわかります。

ほかにも、脂質を摂るために、白いごはんにバターを混ぜてバターライスにするのもおすすめ。筋肉を作るのに必要な肉、卵、大豆製品などのたんぱく質を毎日メニューに入れるなど、脂質とたんぱく質を優先して取れるように意識した献立を心がけましょう。

次回は、気をつけたい合併症についてのお話です。

取材・文/梅崎なつこ
編集/おいしい健康編集部
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