「フレイル」という言葉を目にしたり、耳にしたことはありますか? 健康な状態と、介護が必要な状態との中間のことを指し、2014年に日本老年医学会が「年齢に伴って筋力や心身の活力が低下した状態」と提唱しました。高齢化社会が進むにつれ、これからさらに重要視されていく病態です。
歳をとって身体の機能が落ちていくのは自然の現象ではあるものの、そのまま放置していると介護が必要な状態になってしまいます。健康寿命を伸ばすために、どう対応していけばいいのでしょうか。患者さんの生活や身体機能を高めるため、リハビリテーションと栄養の側面から診療を続けている東京女子医科大学病院リハビリテーション科教授・診療部長の若林秀隆先生にお話を聞きました。
前回は「フレイル」に備えて自身の状態を知ることの大切さを聞きました。今回は、対策としての食生活についてのお話です。
体重管理は『痩せすぎず、太りすぎず』が目安です
フレイル健診の質問票でチェックし、自分の身体や心の状態を知ることの大切さを教えていただきました。医療機関や保健師に相談する以外に、日々の生活の中で気をつけることも大事です。
「フレイルの予防として、まず体重管理が大切です。『痩せすぎず、太りすぎず』という状態が一つのポイント。フレイルというと低栄養で痩せていくことに注目がされがちですが、太りすぎも良くありません。目安としては、BMIの数値を基準にするといいでしょう」
BMIとは、体重と身長から算出する肥満度を表す数値です。計算の仕方は、体重(kg)÷〔身長(m)の二乗〕です。最近では体重計に入力すれば数値が出ることもありますし、数値を入れれば計算できるWEBサイトもあります。
「70歳以上の場合は、BMIの数値が20より下回っているようなら、低栄養に注意しましょう。25〜30の場合は数値の変化の様子を見ます。30を超えて、足腰が痛くなるようなら、少し痩せた方がいいかもしれません。そのように、『痩せすぎず、太りすぎず』を意識して、食事のバランスや運動に気をつけて過ごしていただくことがフレイルの予防になります」
筋肉がつきにくくなっているからこそ、たんぱく質の多い食事を
食事の管理として大切なのは、前回紹介した質問票にもあるように、一日三食きちんと食べることです。とはいえ、食欲がない日もあれば、お腹が空かずに食べる量が減ってしまうこともあるでしょう。
「一日二食で三食分の栄養をとろうとすると、一食で1.5倍食べなければいけません。よっぽどの大食いの方でない限り、とても辛い食事になってしまいますよね。食事の回数を増やしてもいいので、できる限り必要な栄養をとるようにしましょう。若いころよりも筋肉がつきにくくなっているので、たんぱく質の多い食事を心がけてください。一日のなかで、少なくとも二食はメインディッシュを肉や魚に。そのほかにも、大豆製品や乳製品、卵などを積極的にとるようにしましょう」
どうしても一日三食が難しい場合でも、何かしら口にすることが大切だと若林先生は続けます。
「牛乳をコップ一杯でもいいですし、ゆで卵一個でもいい。きちんとした献立にしなくてもいいので、エネルギーやたんぱく質を含むものをお腹に入れるようにしましょう。何も食べないよりはその方がずっといいです。それでも、どうしても難しければ、栄養補助食品でもいい。そのうえで残りの二食はしっかり食事をとるようにしてください」
食欲がない、たくさん食べられないという場合は、市販の栄養補助食品を取り入れてもいいのです。空腹の状態にしておくよりも、何かしら口にするようにしましょう。
食べること自体がトレーニングになります
食事がとりにくい理由として「オーラルフレイル」という問題もあります。オーラルフレイルとは、むせたり、咀嚼しにくいといった口に関するささいな機能の低下から、摂食嚥下障害へと広がるものです。
「摂食嚥下障害ではなく、ただ加齢から『飲み込みにくい』『噛みにくい』という状態の場合は、できる限り普通の食事を心がけましょう。あえて柔らかい食事にする必要はありません。むしろ、固く感じるものを取り入れて、しっかり噛んで食べる方が予防になります。柔らかくした肉ではなく、しっかり焼いた厚いステーキなどいいですね。食事そのものがトレーニングにつながるからです」
食べにくいといって柔らかい食事をすることは、頑張れば歩行できる人が杖に頼るようなものなのだと若林先生は例えます。杖を使うことなく、歩く練習をすることも大切。それは食事でも同じなのです。
食欲を増進させるためには、身体を動かすことも大切なこと。次回は、身体の機能をアップするための運動についてのお話です。
小学館の運営するサライ.jp内に、おいしい健康との特集ページ『いのちを守る食と暮らし』がスタートしました。コロナ禍を経験した私たちが、人生100年時代をどう健康に楽しく生きていくのかを考えていきます。
こちらにも、若林先生のインタビュー記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。
https://serai.jp/save-life
(トップ画像素材:PIXTA)