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2021.6.2 更新

寛解状態を長続きさせる治療が行われます

東京医科歯科大学消化器内科 潰瘍性大腸炎・クローン病先端治療センター センター長

長堀正和先生

クローン病で寛解に導くためには、基本的に「栄養療法」と「薬物療法」が用いられます。とくに薬物療法では、重症度によって違いがあります。

まずは「栄養療法」と「薬物療法」が行われます

「01 腹痛・下痢・血便が主な症状」で解説したように、現在はクローン病を完治させる治療法がありません。

そのため、腸管の炎症を抑え、腹痛・下痢・血便などの症状を軽くした状態(寛解)に導くことが治療の目的となります。

腸に炎症が起こることから、消化管から十分な栄養が摂取できず、体重が減少してしまう患者さんがいます。そのため、栄養状態の改善を図りつつ、寛解状態を長続きさせる治療が行われます。

寛解に導くためには、基本的に「栄養療法」と「薬物療法」が用いられます。こちらの治療法で効果を得られない場合は、手術が検討されます。

栄養剤で炎症を抑える「栄養療法」

「栄養療法」とは、栄養剤(成分栄養剤など)を投与することで腸管の炎症を抑えることを目指す治療法です。

活動期によく用いられる成分栄養剤は「エレンタール®︎配合内服剤」。たんぱく源にアミノ酸を用い、脂肪をほとんど含まず、極めて低残渣(残りかすがほとんど出ず、成分がからだに吸収される)な栄養剤です。

鼻から胃、または十二指腸までチューブを通し、注入ポンプなどを用いて栄養剤を注入します。これを「経管栄養法」といいます。口から飲んで摂取することも可能です。

広い範囲に小腸に病変があるときなどは、静脈から栄養を投与する「中心静脈栄養法」が行われます。鎖骨下静脈などの中心静脈にカテーテルを入れ、栄養を投与します。

寛解期には「経腸栄養法」を自宅で行う「在宅経腸栄養法」(経管または経口)が用いられます。

薬で炎症を抑える「薬物療法」

「薬物療法」とは、薬を投与することで腸管の炎症を抑えることを目指す治療法です。

●主に症状が軽症〜中等度の場合

腸管の炎症を抑える「5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤」や、副作用の起こりにくいステロイド薬である「ブデソニド」が使用されます。
活動期の症状を抑えるとともに、「5-アミノサリチル酸製剤」では再燃予防を目的に用いられます。

「プレドニゾロン」などのステロイド経口剤は、活動期の炎症を抑えて症状を改善するための薬。炎症反応や免疫反応を強力に抑制する、高い効果があります。
ただし、長期的に大量に使用すると副作用が問題に。効果が得られれば少しずつ量を減らしていき、3カ月などを目安に投与を中止します。

●主に症状が中等度〜重症の場合

「5-アミノサリチル酸製剤」や「ステロイド経口剤」で効果が得られない場合や、肛門周囲に膿がたまる(肛門周囲膿瘍)などの肛門に病変がある場合は、抗菌剤が用いられることがあります。

ステロイド経口剤で効果が得られなかったり、ステロイド経口剤を減量・中止すると病状が悪化してしまうときなどには、アザチオプリンなどの免疫調節薬が用いられることがあります。
免疫調節薬は、臓器移植時の拒絶反応の抑制や白血病などの治療薬として開発されましたが、クローン病の治療にも有効なことが明らかになり、広く使用されるようになりました。

従来の薬が効かなかった場合などには、生物が持つ物質(たんぱく質など)をもとにした「生物学的製剤」が使われることがあります。
生物学的製剤の「抗TNF-α抗体製剤」は、患者さんの体内に過剰に増加する「TNF-α」という物質を抑える効果があります。
「抗TNF-α抗体製剤」は、患者さんの体内に過剰に増える「TNF-α」という物質を「TNF-α」を抑える効果が。
「抗IL12/23抗体製剤(ウステキヌマブ)」は、インターロイキン(IL)12とIL23と呼ばれる炎症を引き起こす生体物質に対し、その作用を中和する役割を果たします。
「抗α4β7インテグリン抗体製剤(エンタイビオ)」は、クローン病の患者さんではリンパ球上のたんぱく質であるα4β7インテグリンという物質の働きにより、免疫にかかわるリンパ球が血管内から腸管の組織に侵入し、炎症が持続すると考えられています。このα4β7インテグリンの作用を抑える薬です。

場合によっては手術が行われます

クローン病は薬による治療が基本になりますが、狭窄で腸が詰まる(腸閉塞)、腸に穴が開く(穿孔)、大量に出血する、中毒性巨大結腸症などの合併症があらわれた場合は緊急手術をします。

そのほか、がんの合併、難治性の狭窄、腹腔内に膿がたまる(膿瘍)、腸管と腸管が孔でつながる(内瘻)、腸管と皮膚が孔でつながる(外瘻)、小児に発育障害がみられる、薬による治療が効かない場合も手術が検討されます。

さらに、肛門周囲に膿がたまる(肛門周囲膿瘍)、痛みを伴う排液が多い(痔瘻)など、肛門部の病変に対しても手術が検討されることがあります。

基本的に手術は、症状の原因となっている腸管だけを切除します。狭窄している部分には、切除狭窄形成術が用いられ、なるべく腸管を温存します。

なるべく腸管を温存するのには、理由があります。クローン病は手術により病変を取り除いたとしても再び炎症が起き、新たな病変が生じることが多いためです。

*1 『クローン病・潰瘍性大腸炎の安心ごはん』女子栄養大学出版部

<参考>『クローン病の皆さんへ 知っておきたい治療に必要な基礎知識』難治性炎症性腸管障害に関する調査研究(鈴木班)

文/おいしい健康編集部

東京医科歯科大学消化器内科
潰瘍性大腸炎・クローン病先端治療センター センター長
長堀正和先生

東京医科歯科大学卒業。米国マサチューセッツ総合病院などを経て、2020年4月より現職。専門は、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群。炎症性腸疾患の発症に関する疫学研究がテーマ。厚生労働省科学研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班のメンバーでもある。

東京医科歯科大学消化器内科 潰瘍性大腸炎・クローン病先端治療センター センター長 長堀正和先生

医師の指導のもと栄養指導を受けている方は、必ずその指示・指導に従ってください。