初期段階では、痛みやむくみなどのサインがほとんどなく、症状が出たころには進行している、ということが少なくないのが腎臓病の特徴。「ものを言わない臓器」とよばれるほどなのです。
「腎臓疾患は“気づきにくい“というのが一番のネックなんです。健康診断で数値に何かしら問題があったら、まずは病院に行ってみる。早期発見により、対処できることが山ほどあることを知ってもらいたいですね」
そう話すのは腎臓内科医の菅野義彦先生。患者さんと向き合う現場だけでなく、医療従事者の働く環境を考えた組織作りにも携わる、医師の“当たり前“を覆す歩みを伺いました。
4回目は、先生が医師を目指したきっかけや、今までの道のりについてのお話です。
成績がよかったからたまたま医者になりました。最初は、正直つまらなかったです……。
「僕は、医者にどうしてもなりたくてなったわけではないんです。成績がよかったから医学部に入っただけ」と菅野先生。なんとも正直に過去を振り返ります。
「家族に医者がいたわけでもないので、医師になることに対してそれほど熱意はありませんでした。慶應義塾の附属校に通っていて、上位成績者が行ける医学部にそのまま入学したという感じです。当時から、気が散っていろいろなことに興味があり、医学部は信濃町キャンパスなんですが、附属の同級生たちがいる三田校舎に行って、法律や現代政治学の授業に潜り込んでいました(笑)」。
有名企業に内定をもらっていく同級生たちを羨ましく思いながら、研究者としての道を残すために大学院に進学。腎臓内科を専門としましたが、そのときも興味を見いだせませんでした。大学院卒業後、埼玉医科大学腎臓内科に入局。検査の数値、問診で推測するため、確実な診断には経験が必要であり、上司の指示通りに治療する日々。医師としてのやりがいを感じられなかったと言います。
「40歳ごろになって医者になってよかったと、ようやく思えるようになりました。患者さんの話をヒントに、名探偵ホームズのように原因を突き止め問題を解決していく。自分の答えが合っていたときは、やっぱりうれしいです。この人の体のなかで何が起きているんだろうと考えるのが内科医の本質。とにかく考えるのが好きなんですね。しかも同じ問題は一度たりとも出てこない。そのおもしろさに臨床医になって15年くらい経ち、ようやく実感できました」
患者さんの生活をうまくコーディネイトできたときに、やりがいを感じます。
腎臓病は生活習慣病であり、食生活を中心とした生活改善が大事な要素です。
「患者さんの問題を解決するためには、生活環境を整える必要があり、家族の協力は不可欠です。何人家族か、年収はどれくらいか、離婚しているのか、兄弟と喧嘩しているのは何で?などプライバシーに関わることを聞いていきます。僕としてはすごく興味深いこと。患者さんの視点に立ちながら、その人の人生を含めて、生活をうまくコーディネイトできたときが一番うれしいかもしれません」
生活習慣病の診察は症状を聞いて処方箋を出すという、簡単に終わらせることもできるなか、菅野先生は一歩踏み込んでいきます。
「患者さんとの信頼関係のなかで僕に人生を預けてもらえる。診察室を出るときには、明らかに笑顔で帰っていく姿を見て、“よかったね“と言えるのは、本当にいい仕事だと思います。“よかったね“と言えるまでは、相当に大変なことがいろいろあるんだけど、それを含めての言葉なんだな、と」
最終回は、先生が現在取り組んでいることやこれからの展開についてお聞きします。
編集/おいしい健康編集部