「隠れ貧血」という言葉をご存じですか?
健康診断では貧血などの問題がないのに、体がだるいなどの症状がある…。それは、隠れ貧血かもしれません。
隠れ貧血は、日本人の女性の約2割(※1)にあるとされています。
※1:「平成21年度 国民健康・栄養調査報告」(厚生労働省)
隠れ貧血を放っておくと鉄欠乏性貧血になり、不調を長引かせることになります。鉄欠乏性貧血になる前に隠れ貧血の治療をすることが大切です。
ここでは、隠れ貧血の仕組みや診断方法、治療方法について説明します。
ヘモグロビン値は正常なのに貧血の症状がある
貧血は、血中のヘモグロビン濃度が基準値よりも低い状態のことを指します。
一方、ヘモグロビン濃度は正常でも体内に貯蔵している鉄が減り、貧血と同じような症状が出ることがあります。
これを「潜在性鉄欠乏症」(隠れ貧血)と呼びます。
体内には3〜4 gの鉄があります。体内鉄の3分の2は赤血球内のヘモグロビンにあり、 15~30%は貯蔵鉄として肝臓や脾臓に、4%は筋肉中のミオグロビンにあります。
赤血球のヘモグロビンは全身に酸素を運ぶ働きをしています。体内の貯蔵鉄の量は、血清フェリチンによって測定できます。
フェリチンとは、肝臓や脾臓に存在しているたんぱく質の一種で、鉄分を包み込んで体内にストックする役割を担っています。
血液中の鉄(血清鉄)が不足したときに、貯蔵鉄が血液中に放出され、鉄分不足を補う仕組みとなっています。
鉄欠乏になると、「貯蔵鉄の減少→血清鉄の減少→ヘモグロビンの減少(貧血)」の順に進んでいきます。
したがって、貧血に至らなくともフェリチン値が低下している場合は、貯蔵鉄が減少しており、隠れ貧血の状態にあるといえます。
貧血を予防するには、貯蔵鉄まで増やしておくことが必要なのです。
隠れ貧血は治療が必要です
では、フェリチンはどのくらいあれば健康なのでしょうか?
国内のほとんどの施設で採用しているフェリチンの基準値は、女性4~64 ng/ml、男性19~260 ng/ml前後です。ところが、この数値には問題があります。
鉄欠乏貧血は日本人女性の約1割と推定されますが、「平成21年度 厚労省の国民健康・栄養調査」によれば、隠れ貧血は日本人女性の約2割にあると推定されます。
月経のある女性にいたっては約4割です。
フェリチンの基準値は、多くの人のデータを集計して作られています。
しかし、このデータの中には、フェリチンの値が低い鉄欠乏性貧血や潜在性鉄欠乏症の女性が多く含まれています。
したがって、このデータから作られた女性のフェリチンの基準値は、低く設定されてしまっているのです。
「日本鉄バイオサイエンス学会」もフェリチンの基準値を設定していますが、学会の基準値は男女とも25~250 ng/mlです。
12~25 ng/mlは貯蔵鉄の減少、12 ng/ml以下は貯蔵鉄の枯渇としています。
隠れ貧血は、貧血予備軍として鉄剤による治療対象になります。
残念ながら、フェリチンは通常の健康診断では調べてもらえませんが、健康診断のオプションや病院で調べることができます。
「疲れやすい」「息切れがする」などの不調が続いている人は、ぜひ一度調べてもらいましょう。
その結果「フェリチン値が低い」と指摘されたら、早めに内科を受診し、鉄剤による治療を始めることをおすすめします。
<参考>「内科医の私と患者さんの物語」岡田 定(医学書院)
文/高橋裕子
編集/おいしい健康編集部