痔にはいくつか種類があり、代表的な痔が「痔核(じかく、イボ痔)」、「裂肛(れっこう、キレ痔)」、「痔ろう」の3つです。それぞれの原因は「肛門がうっ血する」「肛門が切れる・破れる」「細菌感染を起こす」になります。
痛い痔もあれば、とくに症状が出ない痔もあります。それぞれできる場所と症状、治療法などについて知っておくと、いざ「何かおしりにできた」ときに役立つはずです。ここでは、痔の三大疾患について、詳しく解説します。
痔核はとくに症状がなければ治療しません
【症状】
俗に「イボ痔」と呼ばれ、肛門疾患の中で最も多く見られます。海外の研究では、痔核の有病率は無症状を含め21.6~55%で*1、2、年齢層は45~65歳が最も多くなっています*3。
皮膚と直腸の境目(歯状線)より直腸粘膜側にできるものを「内痔核」、肛門上皮側にできるものを「外痔核」といいます。
痔核の主な症状は出血と脱出(腫れものが大きくなって肛門から出ること)です。
内痔核の場合、うっ血した箇所から血が滲み出たり、噴き出したりすることもありますが、内痔核ができる直腸の粘膜表面には知覚神経がないために、ほとんど痛みは感じません。
外痔核の場合は、表面が皮膚で痛覚があるため、急に腫れると痛みを感じます。内痔核は押すと中に戻りますが、外痔核は押しても戻りません。
【原因】
「01 日本人の3人に1人は痔の悩みを経験」で直腸の下部周辺には、静脈が網状に集まり、肛門をぴったりと締めるクッションのような役割をする「内痔静脈叢」があることを説明しました。
繰り返しいきむことや不健康な便の状態(下痢や硬い便)、重い物を持つことや妊娠や出産などで、肛門に負担がかかり、内痔静脈叢がうっ血(血流が滞ってしまうこと)してふくらみます。
痔核の人は、便が硬くて、強くいきまないと出ないなど慢性便秘症状を伴っている人が多いとされます。45~65歳に痔核が多いのは、老化によって内痔静脈叢のクッションの機能が低下したり、働き盛りで時間に追われ、便秘になりやすい年代であることが原因と考えられます。
【治療方法】
とくに症状がなければ、病的痔核とはみなさず、通常は治療対象とはなりません。
一時的な痛みや腫れは、軟膏や坐剤などの外用薬を使い、安静にして入浴などで温め、肛門のまわりの血流をよくすることで症状を和らげることができます。
強い痛みを伴ったり、手で戻せるほどの大きさの出っ張りがあったりするときは、手術をすることがあります。
女性、20〜40歳代に多い裂肛
【症状】
肛門の皮膚が切れたり裂けたりした状態で、俗称は「キレ痔」です。裂肛は三大痔疾患のうち約15%を占め、2:3で女性に多く、20~40歳代に多いのが特徴です*4。
裂肛には、急性裂肛と慢性裂肛があります。硬い便をしたときや、下痢をしたときに肛門が痛むのが急性裂肛で、多くはすぐに治ります。急性裂肛を繰り返すと、裂け目がどんどん深くなって炎症が起こり、潰瘍やポリープができて肛門が狭くなって便が出しづらくなる「肛門狭窄(こうもんきょうさく)」になることがあります。この状態が慢性裂肛です。
【原因】
多くは便秘による硬い便や太い便が原因ですが、軟便や下痢によってもできることがあります。裂肛が20~40歳代の女性に多いのは、妊娠・出産を経験したり、会社勤務でトイレに行く機会が減り、便秘になりやすい年代であることが原因と考えられます。裂肛は痛みがあるため、排便を我慢することで、さらに便が硬くなるという悪循環に陥りがちです。
【治療方法】
急性裂肛の段階であれば、食生活に注意したり、軟便剤や整腸剤を使って繰り返さないようにします。痛みの強い時は、入浴や坐浴で血流をよくすることも症状緩和に有効です。
外用薬で治療する場合は、局所麻酔薬やステロイドを含んだ軟膏や坐薬を使用します。肛門狭窄になったり、何度も繰り返す場合は手術が必要です。
痔ろうは自然治癒、薬では完治が期待できません
【症状】
肛門の内側にある肛門陰窩(こうもんいんか)という窪みから細菌が侵入し、これにつながる肛門腺に感染を起こし、化膿して膿がたまります。これを肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)といいます。
さらにこの膿が皮膚側に破れることで、肛門内から外の皮膚側まで膿が通るトンネルのような管ができます。これが痔ろうです。肛門の脇に触ると痛いしこりができ、痛みが一日中続き、だんだんひどくなって発熱することもあります。膿で下着が汚れることもあります。
【原因】
体の抵抗力が弱っていたり、免疫力が低下しているときなどに、下痢によって肛門の組織に細菌感染して起こります。30歳代30%、40歳代21%と若い世代に多くみられます*5、6。この世代に多いのは、仕事のストレスなどで下痢を起こしやすいのが一因として考えられます。
【治療法】
自然治癒や薬によって完治することは期待できないので、手術が必要になります。放置すると、まれに「痔ろうがん」に発展する危険もあるので、早めに治療することが重要です。
市販薬で治らないときなどは受診を
軽い症状のときは市販薬を塗って様子を見てもいいでしょう。
「市販薬を使ってもなかなか治らない」「痛みが強くて日常生活に支障が出る」「出血が続く」などのときは、我慢せずに専門の医療機関を受診しましょう。痔だと思っていたのが、実際は「直腸がん」などのがんの場合もあります。
症状がひどくなっているのに、自己判断で放置するのは禁物です。
<参考> 日本大腸肛門病学会編集「肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱診療ガイドライン2020年版(改訂第2版)」(南江堂)
<参考> 松島誠ほか監修「食事療法はじめの一歩シリーズ 痔で悩む人の毎日ごはん」(女子栄養大学出版部)
*1Gazet JC,Redding W,Rickett JW. The prevalence of haemorrhoids:a preliminary survey.Proc RSoc Med 1970;63(suppl):78-80
*2Johason Jf,Sonnenberg A.Temporal changes in the occurrence of hemorrhoids in the United States and England.Dis Colon Rectum 1991;34:585-591;discussion 591-593
*3Johason Jf,Sonnenberg A. The prebalence of hemorrhoids and chronic constepateion:an epidemiolofic study.Gastroenterology 1990;98:380-386
*4 大腸肛門病学会サイト「肛門の病気」マリーゴールドクリニック 山口トキコ
*5 荒川廣太郎.女性の痔瘻.日本大腸肛門病学会雑誌1990;43:1063‐1069
*6 辻 順行,家田浩男.肛門専門病院における新患5447人の分析.日本大腸肛門病学会雑誌 2013;66:479‐491
文/高橋裕子