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2022.9.14 更新

健診で腎機能の状態を知ることが重要です

現・医療法人社団平静の会西崎クリニック院長 前・聖路加国際病院血液内科・人間ドック科部長

岡田定先生

健診で、腎機能が落ちている可能性があると指摘されたら、何をすべきでしょうか?

腎機能が落ち始めても、「これは腎機能が原因だ」と思えるような異変は感じないものです。腎機能が高度に落ちるとむくみやだるさは現れますが、この症状だけで腎機能が落ちていると確信できる人は少ないのではないでしょうか。
いつか治るだろうとそのままにし続け、尿の異常(回数、量、色など)、吐き気、不整脈などの症状が出るころには、腎機能がかなり低くなった状態になっていることもあります。

この章では、健診で行う腎機能検査の重要性について解説します。

血液検査と尿検査でわかる腎機能の状態

腎臓は、血液中の老廃物をろ過して尿として体から出す一方で、体に必要なものは尿として体から出ないようにする機能を持っています。

血液検査で調べるものは、老廃物のクレアチニン。クレアチニンは、腎機能が落ちると体から出にくくなるため、血液の中にたまってしまい、値が上がります。
また、どれくらいクレアチニンを尿に排泄する能力があるかを示すeGFR(推算糸球体ろ過量)(*)は、腎機能が落ちると値が下がります。

血液検査の結果は、過去数回分までさかのぼり、値が徐々に悪くなっているのか、そのままなのかを把握することが大切です。
値が徐々に悪くなっている方は、悪化の原因を探るためにも医師に相談して、生活習慣などのを見直しをするといいでしょう。
値がそのままの方は、医師に相談したうえで引き続き腎機能の悪化に気をつけましょう。

尿検査では、体に必要なものであるたんぱくが、尿に含まれているかを調べます。これが検査項目の「尿たんぱく」です。
腎機能が落ちると尿にたんぱくが出てきてしまい、一定量を超えると尿たんぱくが陽性になります(尿たんぱくは、運動などの影響で陽性になることもありますが、再検査して確認します)。

尿たんぱくのほかに、血液が尿に混じっていないかを調べます。腎臓や尿の通り道に病気がある場合、血液が尿に混じり、一定量を超えると尿潜血(血尿)が陽性になります。

*:eGFRは、血清クレアチニン値と年齢と性別から計算されます。
※クレアチニンと同じ老廃物の「尿素窒素(BUN)」も腎機能検査として測定されることがあります。

健診結果の見方

健診結果はどのように見たらいいでしょうか。
判定の仕方に厳密な決まりがあるわけではありませんが、健診結果の判定は次のような意味が込められています。

・「異常なし」…今回は腎機能に異常が見つからなかったので、次回も健診を受けてくださいという場合です。

・「軽度異常」…すぐに病院に行くほどではないけれど、日常生活の見直しを考えたほうがいいという意味です。

・「要経過観察」…急ぎではないけれど、指示された期間内にもう一度検査を受ける必要があります。「生活改善」は、腎臓病が疑われる一歩手前なので、すぐに生活習慣の見直しに取り組みましょう。「再検査」は、検査結果が基準値を外れているか、異常の疑いがある場合にもう一度検査が必要という意味です。

・「要医療」「要治療」…腎臓病やほかの病気が疑われるか、明らかな状態なので、医療機関を受診したり治療を受けたりする必要がある場合です。現在、腎臓病で治療中の場合もこちらに含まれることがあります。

eGFRで慢性腎臓病の重症度がわかります

腎臓の機能は、一旦落ちると元に戻らないことが多く、継続的(慢性)に進行する腎臓病は、慢性腎臓病と呼ばれています。
慢性腎臓病の重症度は、eGFRによってG1からG5までのステージに分けられます(下表)。重症度で「ほぼ正常」を示すのが、ステージG1です。eGFRが下がり、G2、G3aとステージが上がるほど、腎機能が落ちることになります。
ステージG5の末期腎不全まで腎機能が落ちると、必要になってくるの治療が透析または腎移植です。

慢性腎臓病になると、腎臓の負担を減らすために食事療法を行う必要があります。
まず、初期のステージのポイントは、エネルギーと食塩をとりすぎないことです。ステージが上がった場合は、たんぱく質やカリウム、リンを制限する必要が出てきます。透析の方は、さらに水分の制限も追加されます。

※これらの食事療法は、体重や高血圧の有無、使っている薬剤、透析回数など、それぞれの方の状態に合わせた内容になります。

このように、さまざまな制限に対応していくためには、食事管理がとても大切。栄養バランスをきちんと管理すれば、腎機能の悪化を遅らせることが期待できます。

腎臓病の食事について詳しく知りたい方は、「腎臓病の食事のきほん」「06 病気が進んだら意識したい栄養素」をご覧ください。

早く行動に移すことがポイント

腎機能が落ちて、慢性腎臓病のステージG3a以上になると、貧血や高カリウム血症、高血圧、心不全など、さまざまな病気が現れる可能性があります。また、慢性腎臓病がステージG5になると、透析や腎移植を行うことになります。
健診で腎機能が落ちている可能性があると指摘されたら、慢性腎臓病にならないために、もしくは慢性腎臓病のステージを上げないためにも、まずは医師に相談しましょう。

腎臓病の食事について詳しく知りたい方は、「腎臓病の食事のきほん」をご覧ください。

<参考> 一般社団法人 日本腎臓学会『腎臓の病気について調べる』
<参考> 日本人間ドック学会2022年度判定区分表
<参考> 慢性腎臓病に対する 食事療法基準 2014年版
<参考> 日本腎臓学会『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018』

文/おいしい健康編集部









現・医療法人社団平静の会西崎クリニック院長
前・聖路加国際病院血液内科・人間ドック科部長
岡田定先生

1981年大阪医科大学卒業。聖路加国際病院内科レジデント、1984年昭和大学藤が丘病院血液内科、1993年からは聖路加国際病院で血液内科、血液内科部長、内科統括部長、人間ドック科部長を歴任。2020 年より現職。血液診療、予防医療に関する著書も多く、現在までに30冊以上を上梓している。

現・医療法人社団平静の会西崎クリニック院長 前・聖路加国際病院血液内科・人間ドック科部長 岡田定先生

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