鉄欠乏性貧血の主な原因は慢性出血であるため、月経のある女性に多い病気ですが、閉経後の女性や月経のない男性、なかでも高齢者に現れることもあります。
その場合、出血の原因が重篤な病気であることも少なくありません。
“たかが貧血”と貧血を軽く考えず、適切な検査を受けて原因を特定する必要があります。
ここでは、貧血の原因を特定することの重要性と、貧血の原因となる病気についてご紹介します。
鉄欠乏性貧血とわかったら、その原因を特定することが重要
鉄欠乏性貧血と診断されたら、鉄剤の治療をすればいいと思われがちですが、治療以上に大切なことは、なぜ鉄分が不足しているのかを特定することです。
原因となっている病気を治療しなければ、治療によって一時的に貧血が改善したとしても、すぐに再発してしまいます。
貧血の裏に、大きな病気が隠れていることも
月経がある女性の鉄欠乏性貧血の主な原因は、子宮筋腫や子宮内膜症、子宮内ポリープなどによる過多月経です。
一方、閉経後の女性や月経のない男性で鉄欠乏性貧血と診断された場合、体の見えない部位で慢性的な出血が起こっていることが考えられます。
痔による出血も少なくありませんが、もっとも多いのが胃や腸などからの消化管出血です。
消化管から慢性的に出血しているということは、胃や腸になんらかの病気を抱えていることが考えられます。
病気としては、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、大腸憩室、胃がん、大腸がんなどからの出血が挙げられます。
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の場合は、出血とともに痛みなどの症状があり、多くの場合は初期のうちに病気が見つかり、大事に至ることはあまりありません。
一方、胃がんや大腸がんの場合は、初期のうちは無症状で、進行して貧血の症状が現れることがあります。
鉄欠乏性貧血のある高齢者の方を内視鏡で検査したら、胃がんや大腸がんが見つかることも少なくないのです。
貧血の症状がなくても、黒い色の便や赤褐色から鮮紅色の便が出たり、便に血が付着していたりしたら、すぐに内科を受診しましょう。
黒い色の便が出た場合は、食道、胃、十二指腸など上部消化管からの出血が考えられます。
血液が胃酸や消化酵素によって黒くなり、それが便とまざって黒い便になります。
赤褐色から鮮紅色の便は大腸の、特に肛門に近いところからの出血が考えられます。
なお、消化管の病気ではなくても、心筋梗塞後や脳梗塞後に新たな血栓を予防するために血液をサラサラにする薬(アスピリンやワルファリンカリウムなど)を飲んでいる人は、消化管出血を起こしやすくなり、鉄欠乏性貧血を起こすこともあります。
<参考>「リモート診療」岡田 定(主婦の友社)
文/高橋裕子
編集/おいしい健康編集部