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2022.9.28 更新

心臓の機能が落ちた状態の「心不全」

竹谷クリニック 院長

竹谷哲先生

「心不全」は、高血圧や心筋梗塞、心臓弁膜症など、さまざまな心臓病の最終段階であり、高齢者に多いのが特徴です。

厚生労働省の統計によると、2021年の心臓病(高血圧を除く)による死者のうち、心不全が約42%の約9000人(※1)。死因1位のがんの中で、一番死亡者数の多い肺がんが約7600人ですから、心不全による死者は肺がんよりも多くなっています。

世界では、社会の高齢化により増えているのが循環器病です。その結果、心不全になる方が急増し、「心不全パンデミック」が起こっています(※2)。日本では、心不全の方の人数は現在約120万人。しかし、2030年には130万人に増加すると推測されています(※3)。
 
※1「令和3年(2021年)人口動態統計月報年計(概数)の概況」(厚生労働省)
※2「心不全の疫学:心不全パンデミック」(日本内科学会雑誌109巻2号 2020年)
※3「日本人と循環器病」(一般社団法人 日本循環器協会)

心不全は心臓の働きが落ちた状態

心不全を病名だと思っている方も多いかもしれませんが、病名ではありません。心臓のポンプの力が弱くなり、必要な量の血液を送り出せなくなった“状態”のことです。結果として血流が弱まり、ある臓器では血液の渋滞(うっ血)が生じ、またある臓器では酸欠(虚血)が生じることにより、さまざまな症状が出ます。

ポンプ機能が低下した心臓は、無理して血液を送り出そうとするため、心筋に負担がかかります。負担が増えると、心筋が厚くなる心肥大が起きたり、心臓の中の血液の量が増えて大きくなる心拡大が起きたりします。

その結果、心臓にかかる負担が増大して、心不全がますます悪化するという悪循環に陥るのです。さらには、心臓が正常に働かなくなるだけでなく、ほかの臓器にも異常が起きてしまいます。

心不全は2つに分類されます。心不全が突然起こる、または急激に悪化する場合が「急性心不全」です。一方、慢性的に心不全状態が継続しているのが「慢性心不全」で、狭心症や心筋梗塞、心臓弁膜症、心筋炎など、さまざまな心臓病が最終的に行き着く状態です。

進行すると日常生活に大きな支障をきたすばかりでなく、突然死を招くこともあるので、なるべく早い段階で治療することが重要です。

代表的な症状は息切れ、呼吸困難、むくみ

心臓の働きが低下すると、全身に十分な血液(酸素)が送り出せなくなります。結果、内臓に水分がたまり、呼吸困難、息切れ、むくみ、体重増加、だるさ、疲れ、食欲不振などの症状が現れるのが特徴です。

【心不全の症状】

◎呼吸困難、息切れ、動悸
心不全になり、心臓から送り出されるはずの血液が停滞して肺の中で渋滞(うっ血)すると、水分が肺にしみ出し、うまく酸素の交換ができなくなります。その結果起きるのが、呼吸困難や息切れ、動悸です。

◎むくみ、体重の増加
心臓のポンプ機能が低下すると、本来心臓に戻るはずの血液が足で停滞するため、むくみが起こります。また、尿を作る腎臓の血流も減ってしまうため、尿の量が少なくなります。尿として排泄されなくなった水分は、体の中にたまって短期間で体重が増えます。

◎だるい、疲れやすい
心不全では、全身の臓器に流れる血液が減ります。とくに運動をつかさどる筋肉の血流低下は、酸欠を引き起こすため、疲れやすく、回復しにくくなります。

◎食欲不振
胃腸も、酸欠とうっ血のために働きが悪くなります。その結果、食欲不振やお腹が張る感じなどの症状が現れることもあります。

心不全の進行を表す4つのステージ

心不全の重症度をあらわすものとしてよく使われるのが「NYHA(ニューヨーク心臓協会)心機能分類」です。日常の生活動作において、呼吸困難、疲労感、動悸、胸の痛みなどの症状が出るか否かで、ステージA〜Dに分けられています。

【NYHA心機能分類】
●ステージA:高血圧や糖尿病など、将来の心不全につながる危険因子をかかえているが、まだ心不全の症状が現れていない段階
●ステージB:心不全の症状はないが、心肥大や心拍出量の低下などの異常が現れてきた段階
●ステージC:心臓の異常だけではなく、息切れやむくみ、食欲不振、腹部膨満感、低血圧などの心不全症状が現れてきた状態
●ステージD:治療が困難なほど、心不全が悪化した状態

ステージA、Bは心不全の予備群といえる段階です。心不全を予防するためには、この段階での危険因子の治療や、生活習慣の改善を行う必要があります。しかし、ステージCになって初めて自覚症状が出て、心臓の異常に気づくというのが現状です。

早めに気づくためには、心不全のリスクがあるのか、自分の状態に注意しておくことが大切です。次に、観察ポイントをお伝えします。

自分の症状をよく観察しましょう

下記の項目をチェックして、自分の症状を確認し、気になることがあれば早めの受診をおすすめします。
とくに「6」「8」「10」の症状が出ている場合は、すでに心不全になっている可能性があります。 なるべく早めに受診しましょう。

【NYHA心機能分類】
□ 1. 生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質異常症)にかかっている、喫煙をしている、または、過去に抗癌剤の投与や放射線治療を受けた。
□ 2. 心臓の病気(左室肥大・心筋梗塞・心臓弁膜症・不整脈・心筋症・心不全等)と言われた。
□ 3. 血縁関係のある家族(両親、祖父祖母、兄弟姉妹等)に心臓の病気や突然死した方がいる。
□ 4. 息切れ、胸痛、腹部不快感、動悸がある。
□ 5. 靴をはく時など、かがみ込んだり、お辞儀の姿勢をしたりすると苦しくなる。
□ 6. 夜間に咳が出たり、就寝中や横になったときに息苦しくなったりする。起きていると楽になる。
□ 7. 夜間、おしっこに起きることが多い。
□ 8. 1週間で合計2kg以上の急激な体重増加がある。
□ 9. 手足がむくむ。
□ 10. 手足が冷たく、慢性的な疲れを感じる。意識を失ったことがある。

毎日体重を測って記録しましょう

心不全で心臓の働きが低下すると、血管の外に体液がたまって、皮膚を押してもすぐに戻らない「むくみ」が出ます。

このようなむくみは、血管の外に数kg分の体液がたまらないと起こりません。したがって、心不全によるむくみを早期に発見するためには、体重を測ることが重要になります。
体重が1週間で2kg以上増えたときは、心不全が悪化したサインです。治療の強化などが必要になりますので、すぐに受診してください。

文/高橋裕子
編集/おいしい健康編集部









竹谷クリニック
院長
竹谷哲先生

1990年兵庫医科大学医学部卒業。大阪大学医学部第一外科入局後、大阪労災病院にて消化器外科、心臓外科に従事。1998年医学博士取得。大阪大学心臓血管外科、日本学術振興財団研究員、先端医療財団主任研究員として循環器領域の臨床、研究に従事。2008年竹谷クリニック理事長に就任。2017年より大阪大学大学院医学系研究科招聘教授。

竹谷クリニック 院長 竹谷哲先生

医師の指導のもと栄養指導を受けている方は、必ずその指示・指導に従ってください。